理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
クローン病再燃し外科的治療後、運動耐容能向上を目指した一症例
─運動療法の可能性─
青木 伸工藤 恵美齋藤 繁幸
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p. Da0336

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抄録
【はじめに、目的】 クローン病に対する治療指針では、厚生労働省難病治療研究班において、治療の目的は病勢をコントロールし、患者様のQOLを高めること。そのために、薬物療法、栄養療法、外科療法を組み合わせることによって、栄養状態を維持し、症状を抑えて、炎症の再燃・再発を予防することが重要といわれている。また、10年生存率は90%以上だが、発症年齢は若年で、再発率は50~60%と高い。以上の事からも運動耐容能が低下することが予測されるが、治療指針には運動療法は含まれておらず、エビデンスも確立されていない。合併症の増悪に注意し運動療法を実施する事で、運動耐容能の維持、向上に繋がり、活動範囲の拡大と、QOLを高めることができる可能性があると考えた。今回クローン病再燃により、外科的治療を施行され、術後合併症にて短腸症候群、ループス腎炎となり血清アルブミン(以下alb)値3.5g/dl未満と低栄養もきたしていた症例に対し、運動処方を検討し運動療法を実施したので、以下に報告する。【方法】 症例は29歳男性、身長160cm、体重45kg、BMI17.6。19年前にクローン病発症し外来にてフォロー中であった。X年12月、低アルブミン血症、貧血等の症状により、精査目的で当院入院(クローン病重症度分類:IOIBD6)。入院後より消化管出血を認め、ストマ造設、小腸切除術施行される。術後18日目より、リハビリ開始(クローン病重症度分類:IOIBD2)となった。理学療法評価では、6MD160m(Borg指数14、ふらつき強くなり終了)、二重積12642、臨床検査所見(TP3.8g/dl、alb1.5g/dl、BUN48.8mg/dl、Cre1.35mg/dl、CRP0.03mg/dl、WBC33.4×100個/μl、Hb10.4g/dl)以上より、炎症は鎮静化していたが、低栄養状態、腎機能低下、運動耐容能低下をきたしていた。運動処方としては、準備運動、主運動、整理運動を行った。健康な成人の体力維持と増進に適当な運動について、勝川の報告では、最大酸素摂取量の50%以上の持久力なトレーニングを、週2回以上、1日10分以上行うこととされている。これより、嫌気性代謝閾値(AT)以下となるよう、最大酸素摂取量の50%、最大心拍数の60%程度を目標とするため、Karvonen式にて目標心拍数(THR)145/分、Borg指数11~13と設定した。主運動は、連続10分以上可能な歩行訓練から開始、60日目より自転車エルゴメーターを追加し、週5日行った。合併症の増悪が起きないよう、バイタルサイン、自覚症状、臨床検査所見に注意し運動療法を実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 人物を特定されないよう配慮することを患者様に説明し、発表の承諾を得る。【結果】 リハビリ実施期間中は合併症や症状の増悪なく、継続的に運動療法を行えた。最終実施日(リハビリ開始後148日目)の理学療法評価では、6MD425m、二重積11772、臨床検査所見(TP5.8 g/dl、alb3.0g/dl、BUN36.8 mg/dl、Cre2.34 mg/dl、CRP0.02 mg/dl、WBC23.3×100個/μl、Hb9.3g/dl)となった。【考察】 リハビリ開始時と終了時の比較では、6MD265m延長、二重積870低下、albにおいては1.5g/dl増加した。以上の結果から、今回設定した運動療法を行ったことで、運動耐容能の向上が認められたと考える。先行研究より、albと6MDは正の相関関係を示すと報告されている。本症例のalbと6MDの関係においても、同様の結果を得た。また、二重積は介入時より低下しており、運動療法による循環動態の改善によるものと推察される。よって、栄養療法と合わせて、適切な負荷量による運動療法が、クローン病患者の運動耐容能向上に関与する可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 クローン病にて栄養障害をきたしていても、運動療法を併用することにより、活動範囲が拡大し、QOL向上に繋がる可能性がある。また、再手術が30%近くと高率であるとことも特徴であり、手術に対しての体力維持にも有用であるのではないかと考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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