抄録
【はじめに、目的】 敗血症とは細菌によって引き起こされた全身性炎症反応症候群である。細菌感染症の全身に波及したもので重篤な状態であり、ショック、DIC、多臓器不全(以下MOF)などから死に至る疾患である。また、急性呼吸窮迫症候群(以下ARDS)の基礎疾患として敗血症が全体の約40%を占める。入院後、ARDSからの呼吸不全をきたし、人工呼吸での換気が困難となったため、一時的に膜型人工肺(以下V-VECMO)管理し酸素化の改善を図りV-VECMOを離脱した症例を初めて担当した。全身状態が不安定な超急性期において、救急医、ICU看護師、臨床工学士、理学療法士2名によるチームアプローチを実施した経過をここに報告する。【症例紹介】 現病歴として、Y病院入院中。12月18日朝から発熱あり。血圧も低く意識障害もあったため、S病院に転院搬送となった。CT上、両側の腎結石、さんご状結石あり。尿路感染からくる敗血症性ショック+DICの可能性あり。無尿にもなり、当院へ紹介となった、74歳女性。診断名は尿路感染症による敗血症、MOF。ADLはもともとベッド上。既往歴として50歳:C型肝炎、HT、58歳 :脳出血、71歳:慢性膀胱炎。【倫理的配慮、説明と同意】 今回の報告はヘルシンキ宣言に基づき実施し、患者家族に対して同意を得た。また、当院の倫理委員会の審査を受け承認を得た。【経過】 初期評価V-VECMO、人工呼吸器、24時間透析管理にて体位変換困難。人工呼吸器設定:モード APRV:high peep28cmH2O ,low peep0 cmH2O、Fio2:60%、サポート圧:100%、呼吸数設定:8、換気量:83/308 ml、意識レベル:JCS 300、両側肺音は無音。肺実質、胸膜部に胸水貯留。体交困難。胸水貯留のため、肺が膨張し、胸郭の可動性なし。血ガスデータ: PH:7.20 ,PCO2:74.2mmHg, PO2:61.5mmHg, HCO3-:28.9mmol/LP/F ratio:86 APACHEII:33点 救急Dr.より理学療法(以下リハ)依頼がり、12月21日リハ介入。リンパドレナージ、スクイージング施行。頻回にリハ実施(可能な範囲で体位ドレナージ)。24日ブロンコ+スクイージング実施。V-VECMO施行にて肺X線画像が良くなり27日V-VECMO離脱。離脱後人工呼吸器の設定をA/Cへ変更。【考察】 肺外性のARDSでは肺血管、肺胞上皮の透過性亢進が起こり、肺水腫の病態が生じる。この様な状態では体位変換やPEEPを含めた人工呼吸器管理による肺の再拡張が主な戦略である。敗血症によるARDS、MOFにより、肺は両側性浸潤陰影を認め、酸素化が障害され、P/F ratioが86となり、V-VECMOを施行した症例である。V-VECMOの役割は(1)酸素化(2)換気(3)肺の安静と保護であり、治療戦略として、モード設定をAPRVで設定を高めにして肺血管内の水分を押し出すイメージで行っていた。Dr.からのリハへの要求として、可能な限り水分を飛ばしてほしいとのことであたった。主治医と相談し(1)頻回のリハ介入(2)ブロンコ+スクイージング(肺リクルートメント法40-40)を同時施行していった。救命処置に対する圧損傷も理解したうえでリハビリを実施し、Drと綿密な相談をして頻回に行った。モード設定をAPRVにし肺の拡張を促した。そのよう中、呼吸リハでは体位ドレナージ、無気肺に対してのスクイ-ジングが適応であると考えられる。人工呼吸器管理では背臥位で管理しないとされており、腹臥位の有効性は数多くの報告がある。しかし、V-VECMO施行中で体位変換が限られていた。そのなか、可能な限りでの側臥位で呼吸リハを施行し、V-VECMO施行にてX線所見が改善したため、8日で離脱となった。リハビリとして(1)頻回のリハ介入(2)ブロンコ+スクイージング(肺リクルートメント法40-40)を同時施行したが、今後その効果と、ARDSに対するリハビリが検討課題である。【理学療法学研究としての意義】 ARDSに対する理学療法の報告は散見されるが、具体的な方法や臨床効果など今後さらに検討すべき課題も存在すると思われる。今回の報告はその一助となるものと思われる。