理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
肺切除術後の運動耐容能と心拍出量及び呼吸機能の関係性
高木 敏之花房 祐輔小野寺 恭子井上 真秀樋田 あゆみ藤田 博暁金子 公一石田 博徳牧田 茂
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p. Da0989

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抄録
【はじめに】 当院では肺癌による肺切除術後患者に対して周術期呼吸理学療法を実施しており、その患者の多くが術後は比較的早期の退院となっている。しかし、自宅退院時に体力の低下や運動時に息切れ感を自覚する患者は少なくない。肺切除術後の患者は肺切除に伴う肺血管床の低下が一回心拍出量(以下SV)の低下を招き心拍量(以下CO)が減少し、これにより最高酸素摂取量(以下PeakVO2/kg)が低下を来たすという報告がある。しかし、そのほとんどが病状が安定しADLの自立した時期(約3~6カ月)の報告であり、術後早期の心拍出量や運動耐容能の変化を追った報告は少ない。今回、肺切除術を施行した患者の術前と退院前の運動耐容能と心拍出量及び呼吸機能の関係性について検討したのでここに報告する。【方法】 対象は2010年12月~2011年3月までに当院で肺切除術を施行し、手術前に心肺運動負荷試験(以下CPX)と呼吸能検査及び心拍出量の測定を実施し、術前後にかけて呼吸理学療法を行った後、退院前に術前と同様の検査を実施した患者10名(男性9名女性1名)とした。CPXには自転車エルゴメータを用い,安静3分間,ウォーミングアップ0Watt4分間の後,15Watt/minのRamp負荷を症候限界性に実施した。その際、呼気ガス分析装置AE300S(ミナト医科学社製)にてbreath by breathによる測定を実施し,嫌気性代謝閾値(以下AT)、PeakVO2/kgを測定した。呼吸機能はチェスト社製MICROSPIRO HI-801を用いて一秒量(FEV1.0)を測定し、最大努力換気量(MVV)をFEV1.0×35から求めdyspena index【最大換気量(PeakVE)/(MVV)】を求めた。心拍出量はCPXの際にPhysioFlow Lab-1(Manatec Biomedical社製)により安静時・AT時・Peak時それぞれのSV及びCOを測定した。測定したAT・PeakVO2/kg、dyspena index、安静時・AT時・Peak時のSV及びCOの各パラメータの術前後の変化をウィルコクソン符号付順位検定を用いて検討した。また、術前後のSVの変化量(⊿SV:術前SV-術後SV)とCOの変化量(⊿CO:術前CO-術後CO)を算出し、それらを手術にて切除した肺の切除区域数、術前後のATの変化量(⊿AT:術前AT-術後AT)やPeakV2O/kgの変化量(⊿PeakVO2/kg:術前PeakV2O/kg -術後PeakVO2/kg)との関係をピアソンの相関係数を用いて相関関係(r)を調べた。【倫理的配慮、説明と同意】 検査実施前には十分に検査の目的・内容を説明し同意を得た。【結果】 PeakVO2/kg(術前→術後)は21.3±3.6→18.5±4.0 ml/kg/min。Peak時SVは92.0±14.2→86.6±13.6 ml/分。Peak時COは11.6±2.4→10.75±2.6 L/分と各項目において術前に比べ術後に有意な低下を示していた(p<0.05)。dyspena indexは46.5±10.5→63.5±18.1%と術後に有意な上昇を示した。また、⊿PeakVO2/kg及び肺切除区域数と⊿SV・⊿COとの関係をみたが、有意な相関は認めなかった【考察】 肺切除術を施行した患者の術前と退院前の運動耐容能及び呼吸機能と心拍出量の関係性について検討した。Peakk時のSVとCOは術後に有意な低下を示しており、肺切除術後に肺切除伴い肺血管床が減少し肺血管抵抗の増大したため術後にSVとCOが低下したと考えられる。このため心拍出量が大きく影響するPeakVO2/kgは術後に有意な低下を示したと思われる。また、肺血管床とSVやCOの関係から肺切除区域数との関係を検討したが、肺切除区域の増大に伴いSVやCOも低下していく傾向は認めなかった。dyspena indexが60%を回る場合は換気以外の因子が運動中止に関与しているとされている。今回の対象とした患者は全て開胸術による肺葉切除を行っており、術後にdyspena indexは63%と上昇している。手術侵襲による影響で換気量の低下を来たし運動制限を起こし術後PeakVO2/kgの低下に至った可能性があると考えた。肺葉切除術による患者の負担は大きく肺切除に伴うSVの低下のみでなく、手術による機能的な侵襲や疼痛などから換気能の低下やその他にも患者の体力低下を招く因子があと考える。今後も検討を重ね術後患者の運動耐容能や呼吸機能の改善を促し、速やかな自宅生活の復帰を目指す必要があると考えた。【理学療法学研究としての意義】 肺切除術後の運動耐容能低下の要因を考え、術後から自宅退院後の体力低下を是正し、速やかに日常生活に戻れるよう理学療法内容の検討をしていく。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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