抄録
【はじめに、目的】 パーキンソン病(PD)の合併症の一つに起立性低血圧をはじめとする自律神経障害があり、ADLを低下させ、全身の持久性の低下を引き起こす一因となっている。自律神経障害の指標として、安静時における心拍変動係数(CVR-R)や心拍変動スペクトル解析などが非侵襲的であり客観的指標として用いられている。自律神経障害を合併する糖尿病患者など他疾患においては、運動時における自律神経活動も障害され心拍応答が健常人と比べて低下しているとの報告がされている。PD患者において安静時の自律神経障害の評価や全身持久力の指標である最高酸素摂取量(peakVO2)が低下との報告は認められるが、運動時における自律神経障害とPeakVO2についての関連の報告はみられない。今回、PD患者において運動負荷中におけるCVR-R、R-R間隔変動スペクトル解析を用いて運動時の自律神経活動と最高酸素摂取量の関係を検討した。【方法】 対象者は呼吸・循環器に既往歴がないPD患者15名(性別:男性6名、女性9名、年齢71.3±8.0歳、Hoehn-Yahrのstage分類:II 2名 III 13名)とした。サイクルエルゴメーター(Cateye社製、EC-MD100)を用いて、安静座位3分、20w定常負荷3分後に、10w/minの漸増負荷を症候限界まで実施し、クールダウン後、安静3分の運動負荷試験を実施した。呼気ガス分析器(ミナト社製、MetaMax3B)とR-R間隔(アームエレクトロニクス社製、メモリー心拍計 LRR-03)を使用し計測を行った。呼気ガス分析では、Peak VO2、心拍数変化(⊿HR)、最高仕事量(Peak Load)、⊿HR/⊿VO2、⊿HR/⊿Loadを計測した。R-R間隔計測では、CVR-R及びR-R間隔の時系列データを最大エントロピー法によるスペクトル解析(MEM解析、MEM-Calc2000、諏訪トラスト)を実施した。スペクトル解析において心拍変動の周期成分のうち、高周波成分(high frequency component;HF:0.15~0.40Hz)は副交感神経、低周波成分(low frequency component;LF:0.04~0.15Hz)と高周波成分との比(L/H)が交感神経を反映すとされている。解析周波数帯域を0.04~0.15Hz、0.15~0.40Hzの区分で解析を行った。統計解析は、Spearmanの順位相関係数、wilcoxonの符号順位検定を行った。なお、統計処理には、統計用ソフトウェア(SPSS11.5J for Windows Regression Models)を使用し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、当院倫理委員会の承認を得て実施した。本研究の参加に際し、対象者に研究の趣旨、内容、および調査結果の取り扱い等に関して説明し同意を得た。【結果】 対象者のCVRRは安静時1.42±1.07%、20w時2.00±1.11%、Peak時2.48±2.10%、終了時2.02±1.29%であった。スペクトル解析では、HFは安静時6.38±4.42msec2、20w時は9.55±8.31 msec2、Peak時は5.81±6.77 msec2、終了時は7.28±4.28 msec2、L/Hは安静時3.56±3.93 、20w時は3.65±4.06 、Peak時は3.13±4.45 、終了時は7.04±4.98 であった。Peak VO2は14.7±5.13ml/min/kg、⊿HRは27.2±21.1bpm、peak wattは54.8±27.6watt、⊿HR/⊿wattは0.52±0.34であった。⊿VO2/⊿WRは14.9±4.6、⊿HR/⊿VO2は0.95±0.72であった。安静時と運動時・終了時におけるCVRR、HF、L/Hでの有意な差は認められなかった。安静時のCVRRとPeakVO2、⊿HR、⊿HR/⊿VO2、⊿VO2/⊿WRにおいては有意な相関が認められたが、peak watt、⊿HR/wattについては、相関関係を認めなかった。【考察】 PD患者における最高酸素摂取量の低下因子について検討を行った。PD患者において全例酸素摂取量や最高仕事量の低下が示唆された。CVRRが低値であるほど、PeakVO2や心拍応答が低下していることや運動中のHFおよびH/Fにおいても有意な差が認められなかったことからPD患者において運動時における心拍応答やPeakVO2の低下の一因が心臓交感・副交感神経機能の低下にあることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 パーキンソン病患者において、CVRR変動係数が低下している患者においては、心臓交感・副交感神経機能に低下を予測できる可能性があるため、より安全な運動療法を実施する一助となりえると考えられる。