理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
リンパ脈管筋腫症により脳死片肺移植術後、肺移植再登録が必要となった症例の理学療法経験
南島 大輔仲冨 千瑞秋場 美紀森 信芳
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p. Db0557

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抄録
【はじめに、目的】 当院は脳死肺移植認定施設であり、脳死・生体の肺移植が行われている。リンパ脈管筋腫症(以下LAM)は、形態学的にやや未熟で肥大した平滑筋様細胞が肺や縦隔、また後腹膜や骨盤腔のリンパ節で慢性・びまん性に、不連続性に増殖し、肺内に病変が起きると呼吸不全を起こす疾患であり、脳死肺移植の適応疾患となっている。今回LAMにより脳死片肺移植後、移植肺の気管支吻合部と末梢気管支の狭窄により肺移植の再登録が必要となった症例の理学療法を経験したので報告する。【方法】 症例は40代女性。術後8日目より理学療法開始、順調に離床・ADLが改善し1ヶ月半後には独歩監視にて院内歩行も可能になった。しかし2ヶ月後より呼吸苦の訴えが強くなり、気管支鏡下にて頻回にバルーニング、肉芽焼灼、マイトマイシン塗布などを施行するも症状の改善は軽度に留まっていた。 3ヶ月半後より右残存肺の過膨張による縦隔の左移植肺側へのシフトが起こり、左上葉気管支が圧迫され呼吸苦の訴えが強くなった。 5ヶ月後には右中葉気管支に気管支塞栓子を留置し、中葉の縮小が得られたが呼吸苦は改善しなかったため、5ヶ月半後右残存肺の過膨張に対し、右肺容量減少術施行。6ヶ月後、右肺瘻遷延のため縫縮術、7ヶ月後には右膿胸発症し開窓術施行。8ヶ月後より左気管支の狭搾が強くなり、気管支鏡下にて前述した処置を頻回に施行。その後もほぼ毎日、同様の処置を行い呼吸苦と喀痰貯留の軽減を図っていた。症状落ちつき気管支鏡の回数減ったが、翌月に再度呼吸苦増悪あり。頻回な気管支鏡下での処置の必要性と、症状の改善が見込めず社会復帰が困難なため主治医より再移植の提示があり、本人・家族ともに希望されたため、13ヶ月後再登録を行う。【倫理的配慮、説明と同意】 今回の発表にあたり、発表報告者が対象者に対し、書面および口頭にて十分な説明を行い、本人の署名を以って同意を得た。【結果】 理学療法は術後8日目よりコンディショニング調整と離床から開始し、ADLの再獲得と歩行能力改善を目標に運動療法を行い、術後2ヶ月半時の6MD261m。 症状出現後はストレッチ、コンディショニングを中心に施行し、体調の良い日には能力維持目的に簡単な筋力トレーニング、歩行練習などを行い、4ヶ月後6MD258m。 右肺容量減少術後は、ADL室内レベルとなり、病室内トイレへの移動も息切れが著明に出現するため、理学療法はベッド上でのコンディショニングのみという時期が半年続いた。その後2ヶ月程度車椅子や簡単な歩行練習などを少しずつ行ったが、その後もまたコンディショニングのみ施行が半年続いた。20ヶ月後より少しずつ運動療法行えるようになり、術後22ヶ月現在、歩行器使用し60m程度の歩行が可能となっている。【考察】 当院では22例が脳死片肺移植術施行しており、20例がADL自立、歩行獲得し社会復帰、1例が転院後に社会復帰となっており、術後平均在院日数76日(39-126日)である。しかし本症例は術後急性期の拒絶反応は認めず、2ヶ月半後まで順調な経過であったが、活動範囲の拡大に伴い、右残存肺の過膨張が原因で左移植肺が圧迫され、呼吸苦が出現し、外科的処置が必要となった。それに加え、左気管支狭窄により、呼吸苦、喀痰貯留傾向を呈し、症状が改善しないため再移植登録に至った。 本症例は、2ヶ月半後に退院計画が出ていたが、症状出現し治療が必要であり、社会復帰が困難な状況と判断され、入院しながら移植待機となったため長期入院が必要となった。さらに5ヶ月半後の肺容量減少術後は一般病棟帰室後も気管支鏡検査や頻回な吸引操作が必要であったため、個室管理となり部屋からの外出も困難な状況に置かれていた。自宅も当院より遠方にあり、家族の面会も限られているため、長期入院による精神的なストレスも多い環境にあった。 理学療法の経過を振り返り、ADL能力低下を防ぐためにコンディショニング、気分転換の車椅子乗車のみの施行が長期に渡った。本人から運動療法への拒否があったため無理に行う事は困難であったが、もう少し能動的な運動量を増やす工夫が必要であったと思われる。今後は、再移植まで在宅待機を目標にADL能力改善を目指して取り組んでいく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 肺移植術後は機能的に劇的な改善を見せるが、術後3週間以内に起こる急性拒絶反応、6ヶ月以上経過後に起こる慢性拒絶反応というリスクがある。また、ドナー不足による片肺移植術の選択には本症例のように、残存肺の過膨張による移植肺への影響をきたし、ADL障害を引き起こすリスクもある事が考えられた。脳死片肺移植術後は、症状の変化に柔軟に対応しながら理学療法を行い、可能な限り能力改善や維持に努める事が重要であると考えた。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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