理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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上肢挙上角度の違いがchest wall体積に及ぼす影響
高嶋 幸恵野添 匡史髙山 雄介橋詰 裕美松下 和弘間瀬 教史
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キーワード: 上肢挙上, 胸郭, 呼吸
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p. Db0567

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抄録
【目的】 慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者は上肢挙上動作時に息切れが生じやすいといわれ、その要因として、上肢挙上姿勢における肺気量位や呼吸補助筋活動の変化が関与しているといわれている。我々は、これらの要因に加え、chest wall体積の変化も息切れに関与していると考えている。しかし、上肢挙上姿勢において、chest wall体積がどのように変化するかはほとんど報告されていない。 本研究の目的は、上肢挙上角度の違いがchest wall体積にどのような影響を及ぼすか、健常人を対象に検討することである。【方法】 対象は健常男性7名(年齢26.7±2.1歳)とした。測定には8台の赤外線カメラと解析用PCからなる3次元動作解析システム(Motion Analysis社製Mac 3D System)を用い、chest wall 運動・体積を測定するための反射マーカーを体表面に86個、上肢挙上角度を測定するための反射マーカーを右肘頭に1個貼付けた。測定肢位は両上肢を体側に下垂した立位(下垂位)、両肩関節90度屈曲位(水平挙上位)及び180度屈曲位(最大挙上位)の3肢位とした。各肢位にて安静呼吸を1分間測定し、安定した5呼吸の終末呼気位および終末吸気位の平均座標を算出した。各肢位における終末呼気位と終末吸気位の平均座標値から終末呼気chest wall体積、終末吸気chest wall体積を算出し、その差をchest wall一回換気量とした。終末呼気・吸気chest wall体積及びchest wall一回換気量は、さらに上部胸郭、下部胸郭、腹部の3部位に分けた値も算出し、各肢位で比較した。【説明と同意】 対象者には本研究の趣旨を説明し、参加の同意を得て実施した。本研究は、甲南女子大学研究倫理委員会の承認を得ている。【結果】 終末呼気chest wall体積および終末吸気chest wall体積は、下垂位・水平挙上位と比較して最大挙上位で有意に増加した。部位別に比較したところ、上部胸郭では終末呼気・吸気体積ともに下垂位、水平挙上位と比較して最大挙上位で有意に減少した。一方、下部胸郭は終末呼気・吸気体積ともに下垂位、水平挙上位、最大挙上位の順に有意に増加し,腹部においては、下垂位、水平挙上位と比較し最大挙上位では終末呼気体積、終末吸気体積ともに有意に増加した。また、chest wall一回換気量については、各肢位間で有意な差はみられず、部位毎に分けてみたときも、有意な差はみられなかった。【考察】 本研究の結果、上肢挙上角度の違いによって上部胸郭の終末呼気・吸気体積は減少し、下部胸郭・腹部の終末呼気・吸気体積は増加することが確認された。一方、一回換気量についてはchest wallだけでなく、各部位の変化についても有意な差はなかった。以上より、健常人においては上肢挙上角度が変化すると、chest wallの形状が変化することで終末呼気体積は変化するものの、chest wall運動には大きな影響を与えない可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 COPD患者が上肢挙上動作で息切れを訴えやすい要因の一つとして、下部胸郭や腹部体積が増加することで肺過膨張を招きやすいことが考えられた。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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