理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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運動前後の血糖値変化の提示により、運動の動機づけは向上するのか
笠原 正資柿花 宏信山下 拓高田 健司深水 真希松尾 善美
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キーワード: 糖尿病, 急性効果, 動機づけ
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p. Db0572

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抄録
【はじめに、目的】 糖尿病患者の運動療法指導において、運動前後における血糖値の提示は、運動療法の動機づけに利用されている。血糖値の提示により、動機づけが向上するとの報告は散見されるが、動機づけ理論に着目した報告は我々が調べ得た限り見当たらなかった。そこで、今回動機づけ理論の一つである自己決定理論を基に、運動行動を対象として開発された尺度のBehavioral Regulation in Exercise Questionnaire-2(BREQ-2)を使用し、運動前後の血糖値の提示と動機づけの関連について検討した。【方法】 対象は、平成23年3月1日から平成23年9月30日に、当院の糖尿病教育入院に参加した糖尿病患者25名(男性14名、女性11名、年齢 62.0±10.8歳、BMI 25.2±4.0、HbA1c 9.9±2.7%、罹病期間 6.8±8.0年)である。運動制限が必要な合併症を有する患者や認知症のある患者は除外した。方法は、理学療法士による運動療法の講義に続いて、エルゴメーターにて20分間の有酸素運動を実施した後、簡易血糖測定器にて測定した運動前後の血糖値を提示した。運動負荷はRPEの「楽である」を目標とした。運動に対する動機づけは、BREQ-2を和訳して使用し、運動の指導前後に測定した。BREQ-2は、内的整合性確認のため、下位尺度間の相関係数とCronbachのα係数を算出した。また、下位尺度点数に加えて、動機づけの自己決定性の程度を表すRelative Autonomy Index(RAI)を算出した。運動前後の血糖値の比較は対応のあるt検定、BREQ-2下位尺度点数の指導前後の比較にはWilcoxon検定を用い、統計学的処理にはSPSS 12.0Jを使用し、危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に対して研究の趣旨と内容,および個人情報の管理について予め十分に説明を行い、同意を得て研究を実施した。【結果】 運動前後の血糖値は194.2±59.1mg/dlから140.1±50.6 mg/dlと有意な低下が認められた(P<0.01)。BREQ-2の尺度間の相関係数は、同一的調整を基準として、隣接した取り入れ的調整(r=0.392)から非動機づけ(r=-0.440)へ向かうにつれて低くなる結果となった。Cronbachのα係数は0.503~0.796であった。BREQ-2下位尺度点数の指導前後変化は、非動機づけは1.9±2.4点から0.5±1.1点と有意な低下を認めた(P<0.05)。外的調整は1.8±2.4点から1.5±2.2点(P=0.50)と有意な低下は認めなかった。取り入れ的調整は3.3±3.2点から4.8±3.1点(P<0.01) 、同一化的調整は10.2±2.8点から12.3±2. 1点(P<0.01)、内発的調整は6.9±3.6点から9.6±3.1点(P<0.01)と有意な向上が認められた。RAIについても6.8 ±5.1点から10.5±3.8点と有意な向上が認められた(P<0.01)。【考察】 自己決定理論では自己決定性の低い極を非動機づけ、高い極を内発的動機づけと位置づけており、一連の分類を自己決定連続体と捉えている。この理論では、自律性(自分自身の行動を自分が決定しているという感覚)、有能感(自分が環境や課題などにうまく対処できている感覚)、関係性(愛し愛されたい、思いやってあげたい、思いやりを受けたいとの欲求)、この3つの欲求を満たされることにより、内発的動機づけが促進されると考えられている。本研究の結果から、運動の実施により血糖値を低下させるという活動に成功したため有能感を認知することができ、内発的動機づけが向上し非動機づけが低下した。また、血糖値の低下が外的報酬となり、正のフィードバックである情報的側面の働きが強くなったことで、内発的動機づけが向上したと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 糖尿病患者の運動療法指導において、運動前後の血糖値を提示することが運動習慣の動機づけに有効であることが示唆された。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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