抄録
【はじめに、目的】 COPD患者において最大運動能力評価は非常に重要な評価方法である。一般的に用いられる評価方法として、6分間歩行距離(以下、6MWD)や漸増シャトルウォーキングテスト(以下、ISWT)がある。ISWTは多段階負荷による全身持久力評価であり、6MWDよりも最高酸素摂取量との相関が高く、再現性も良好であると報告されている。しかし、ISWTは漸増式負荷試験である為、転倒や循環動態のリスク管理下に熟練したスタッフの対応が必要である。そこで簡便で安全に持久力を評価する6MWDに瞬発的な要素を反映する5m最速歩行速度を掛け合わせ、6MWDの運動耐容能評価としての精度を高めることを目的とした『歩行速度指数』を考案した。COPD患者17名のパイロットスタディ-の結果として、6MWD単独よりも歩行速度指数がISWTと極めて強い相関が得られた。そこで今回は、症例数を増やして検証してみた。【方法】 対象はCOPD患者89名(平均年齢:74.0±8.7歳、BMI:20.7±3.8、%FEV1.0:50.5±22.8 %)とした。除外対象者は、重篤な内科的合併症を有する者、歩行に支障をきたすような骨関節疾患を有する者、脳血管障害の既往がある者、その他歩行時に介助を有する者、理解力が不良な者、測定への同意が得られなかった者とした。主要測定項目は6MWDの歩行距離と5m最速歩行速度を掛け合わせた歩行速度指数、6MWDおよび5m最速歩行速度とした。副次的測定項目はmodified Medical Research Council 息切れスケ-ル(以下、mMRC息切れスケ-ル)、握力、大腿四頭筋筋力、片脚立位検査、Timed Up and Go Test(以下、TUG)、30秒椅子立ち上がりテスト(以下、CS-30)、ISWT、The Nagasaki University Respiratory ADL questionnaire(以下、NRADL)、St George’s Respiratory Questionnaire(以下、SGRQ)とした。統計学的解析は、主要評価項目と副次的測定項目との関係をピアソンの相関係数で分析した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象には本研究の意義、目的、方法などを文書と口頭にて説明し、同意を得た。なお、本研究は佐賀大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した。【結果】 歩行速度指数は611.4±374.0、6MWDの歩行距離は344.0±143.6m、5m最速歩行速度は1.64±0.5m/秒であった。歩行速度指数は、mMRC(r=-0.67、p<0.01)、握力(r=0.47、p<0.01)、大腿四頭筋(r=0.42、p<0.01)、片脚立位検査(r=0.51、p<0.01)、TUG(r=-0.69、p<0.01)、CS-30(r=0.77、p<0.01)、ISWT(r=0.89、p<0.01)、NRADL(r=0.66、p<0.01)、SGRQ(r=-0.48、p<0.01)において有意な相関が認められた。6MWDはmMRC(r=-0.73、p<0.01)、握力(r=0.42、p<0.01)、大腿四頭筋(r=0.36、p<0.01)、片脚立位検査(r=0.49、p<0.01)、TUG(r=-0.72、p<0.01)、CS-30(r=0.74、p<0.01)、ISWT(r=0.86、p<0.01)、NRADL(r=0.74、p<0.01)、SGRQ(r=-0.53、p<0.01)において有意な相関が認められた。【考察】 歩行速度指数はISWTと有意に強い相関を認めた。このことより、歩行速度指数は運動耐用能評価としての可能性が示唆された。しかし、本研究の目的であった6MWTの運動耐用能評価精度を高めることについては、6MWDと同等の相関係数であった為、6MWDの評価精度を高めることは困難であった。 その理由として、ISWTは1分おきに徐々に歩行スピードが増加していく漸増負荷試験である。ISWTにおいて歩行スピードが要求されるのは評価開始後数分後であり、歩行スピードが5m最速歩行速度と同等の速さになる前に呼吸困難感、下肢の疲労感により評価が終了している。そのため、6MWDと5m最速歩行速度を掛け合わせても運動耐容能評価としての精度が上がりにくかったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、6MWDの評価精度を高めることは困難であった。しかし、歩行速度指数はISWTと強い相関を認めたことで、全身持久力評価として有用である可能性が示唆された。