抄録
【はじめに,目的】 COPDのGlobal Initiative for chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)病期分類の指標として%FEV1.0がある。しかし、%FEV1.0だけではCOPDの病期進行度の測定は行えるが,日常生活への影響などを総合的に評価することは困難である。そこで,簡便で総合的な評価法として注目されている検査法がCOPD Assessment Test(CAT)である。CATとは,COPDの状態が患者の健康状態や日常生活にどのような影響を及ぼしているかを総合的に把握するために開発されたツールで,8項目40点満点の質問票である。2009年9月の発表以降,世界40ヶ国語以上に翻訳され,現在,ヨーロッパやアジアなど世界各国で妥当性試験が実施され,注目を集めている検査方法である。Jonesらによると,健康関連QOLの評価であるSt.Georges Hospital Respiratory Questionnaire(SGRQ)と極めて高い相関性があることが報告されている。しかし,健康関連QOL以外の身体機能,身体能力,ADL能力との関係についての報告はいまだ少ない。そこで,CATと呼吸機能,身体機能,身体能力,ADL能力,健康関連QOLとの関係を検証し,各評価項目の相対的な指標としてCATが臨床的に有用であるかを検討することを目的とした。【方法】 対象は当院に通院しているCOPD患者30名(男性25名,女性5名,GOLD病期分類1期4名,2期13名,3期8名,4期5名),平均年齢は72.5±7.2歳,平均BMIは22.1±3.8,平均modified Medical Research Council dyspnea scale(mMRC)は2.0±1.0であった。主要測定項目はCATとした。測定項目は,呼吸機能,身体機能評価として呼吸筋力(%PImax,%PEmax),%膝伸展筋力,%握力,身体能力評価として30秒椅子立ち上がりテスト(CS‐30),Timed Up and Go test(TUG),5m最速歩行速度,6‐Min Walk Test(6MWT),Incremental Shuttle Walking Test(ISWT)とした。ADL能力評価はNagasaki Respiratory ADL Questionnaire(NRADL),健康関連QOL評価はSGRQとした。CATと各測定項目との結果をPearsonの積率相関係数を用いて分析し,統計学的有意水準は5%とした。なお,解析にはSPSS version17.0を使用した。【説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言に沿った研究として実施した。対象への説明と同意は,研究の概要を口頭及び文章にて説明後,研究内容を理解し,研究参加の同意が得られた場合,書面にて自筆署名で同意を得た。その際参加は任意であり,測定に同意しなくても何ら不利益を受けないこと,また同意後も常時同意を撤回できること,撤回後も何ら不利益を受けることがないことを説明した。【結果】 CATは平均14.8±8.7点であった。CATは%FVC(r=-0.45,p=0.002),FEV1.0%(r=-0.48,p=0.008),%FEV1.0(r=-0.62,p<0.001),mMRC(r=0.74,p<0.001)と有意な相関が認められた。また,身体能力評価であるCS‐30(r=-0.59,p<0.001),TUG(r=0.41,p=0.03),5m最速歩行速度(r=-0.50,p=0.004),6MWT(r=-0.71,p<0.001),ISWT(r=-0.61,p<0.001), NRADL(r=-0.81,p<0.001),SGRQのSymptom(r=0.76,p<0.001),Activity(r=0.76,p<0.001),Impact(r=0.88,p<0.001),Total(r=0.88,p<0.001)とも有意な相関が認められた。しかし,身体機能評価である呼吸筋力%PImax(r=-0.24,p=0.21),%PEmax(r=-0.09,p=0.63),%膝伸展筋力(r=-0.06,p=0.97),%握力(r=0.20,p=0.30)との相関は認められなかった。【考察】 CATは呼吸機能,mMRC,身体能力,NRADL,SGRQ の各項目との間で相関が認められた。その中でもmMRC,6MWT,NRADL,SGRQ の各項目との間で強い相関が認められた。CATの質問構成項目から,呼吸困難感の評価であるmMRC,活動量の指標となる6MWTやADL能力,QOLに点数が直接的に影響を受け,強い相関が認められたのではないかと考える。しかし,身体機能の評価項目である呼吸筋力(%PImax,%PEmax),%膝伸展筋力,%握力との相関は認められなかった。このことから,CATはCOPD患者の呼吸機能,身体能力,ADL,QOLの相対的な状態をみる指標として有用であるが,個々の身体機能を判断する指標としては活用が困難であり,身体機能の状態を把握するためには個別に評価を行う必要があると考える。【理学療法研究としての意義】 本研究の結果より,CATはCOPD患者の全体像を把握するツールとして活用できる可能性が示唆された。専門的な検査を行うことができない病院,施設でも,CATを用いることで簡便にCOPD患者の身体能力やADL能力,QOLの相対的な状態を把握することができるのではないかと考える。また,患者教育や病態管理を行う際の指標としても用いることができ,より的確な治療やケアを提供できるのではないかと考える。