抄録
【目的】 がん患者に行われる化学療法は最も有効な治療手段の一つであるが、悪心・嘔吐・倦怠感などの有害事象を併発する結果、廃用症候群による日常生活動作(以下、ADL)の低下をきたすことが少なくない。さらにADLの低下により、今後の化学療法の中断を余儀なくされる場合もあり、化学療法患者ではいかに廃用症候群を最小限に留めるかが課題である。そこで、化学療法患者における廃用症候群の実態を明らかにすることを目的に、当センターにおいて理学療法が実施された化学療法患者の現状を調査し、若干の知見を得たので報告する。【方法】 平成22年4月~平成23年9月までに化学療法による廃用症候群に対する予防・改善を目的とした理学療法の処方された患者50名を対象とした。調査項目は年齢、男女比、処方科、疾患構成比、転帰先、リハ開始時と退院時のADL評価(Barthel Index、以下BI)およびPerformance Status(以下、PS)、入院期間、リハ開始までの期間、リハ実施期間とした。また、BIデータを元に患者間の治療効果を比較するためのリハ効果(rehabilitation efectiveness)を算出し、対象患者の転帰先を自宅群、転院群に分け、後方視的に調査・検討した。統計にはStatView5.0Jを用い、危険率5%以下を有意水準とした【説明と同意】 すべての対象者には本研究の目的と内容を説明し、データの使用に同意を得た。【結果】 平均年齢68.8±9.6歳、男女比は男性:女性=32:18、処方科は消化器内科が17名と最も多く、ついで呼吸器内科10名、血液内科9名、頭頸部外科5名、泌尿器科4名、その他5名であった。疾患構成比は肺がん11名、悪性リンパ腫・胃がん・食道がんがそれぞれ7名、咽頭・喉頭がん5名、その他が13名であった。転帰先は自宅36名、転院8名、死亡6名であった。リハ開始時と退院時のBIは、リハ開始時52.3±23.9、退院時66.8±27.1と有意な改善が見られた(p<0.01)。PSに関してもリハ開始時と退院時では有意な改善を認めた(p<0.01)。次に死亡6名を除外した44名について自宅群と転院群の2群で比較すると、入院期間、リハ開始までの期間、リハ実施期間で有意な差は見られなかった。リハ開始時のBIは自宅群56.1±23.6、転院群35.6±17.6と自宅群の方が有意に高かった(p<0.01)。また、リハ開始時と退院時のBIは、自宅群でリハ開始時56.1±23.6→退院時74.4±21.9と有意な改善(p<0.05)が見られたが、転院群ではリハ開始時35.6±17.6→退院時32.5±22.2と変化は見られなかった。また、BIを用いた患者毎の機能改善度の割合を示した「リハ効果」は、自宅群の方が有意に高かった(p<0.05)。【考察】 今回の結果で、消化器内科や呼吸器内科からの処方が多かったが、これは両科の治療が化学療法中心であり、今回の調査対象となる患者が多いことから当然の結果となった。全体的にBI、PSともに改善が見られたことは理学療法の介入が化学療法患者のADL向上の一翼を担った結果と考えられる。自宅群と転院群との比較では入院期間、リハ開始までの期間、リハ実施期間に有意な差が見られなかったが、自宅群ではBI、PSともに改善が見られリハ効果も高かった。一方、転院群ではリハ開始時のBIが有意に低く、さらにBI,PSともに改善が見られずリハ効果も低かった。このことから、がんリハビリテーションで問題となる化学療法患者は、リハ開始時に既に何らかのリスクファクターを有している可能性があり、その後の回復にも影響を及ぼしていると考えられる。したがって、患者の有するリスクファクターに対応しながら、廃用症候群を最小限に抑えることが重要であり、そのために可能な範囲でより早期からの理学療法の介入が望ましいと思われる。特に消化器外科や呼吸器外科患者は栄養や呼吸などの問題を抱えており、病棟を含めたチームアプローチが重要であると考えられる。さらに、化学療法患者は有害事象により活動性が低下し廃用症候群に陥ることが早期より予測されることから、廃用症候群が発生してからの対処ではなく、予防の観点から理学療法を実施することが最も重要であると考えられる。今後はより症例を増やし、さまざまな影響を及ぼす交絡因子を含めて分析する必要がある。 【理学療法学研究としての意義】 今回、化学療法患者における廃用症候群の実態を明らかにすることを目的に理学療法が実施された化学療法患者の現状を調査した。がんリハビリテーションの問題となる化学療法患者は何らかのリスクファクターを有していることが示唆された。今後、廃用症候群の予防を目的とした理学療法の早期介入が重要である。