抄録
【はじめに、目的】 わが国では人口に占める後期高齢者の割合が増え、要介護状態の重度化が社会的に問題となっている。なかでも、転倒を契機に寝たきりを惹起する虚弱後期高齢者の転倒が、安全な医療を実施する上での課題となっている。しかしながら、先行研究ではリハビリテーション目的で処方される運動療法プログラムが、必ずしも転倒に有効ではないとも報告されている。ゆえに我々は虚弱後期高齢者の中でも、転倒経験を有する者と未経験な者がいることに着目し、転倒に影響を与える因子を比較検討することとした。【対象と方法】 対象:平均年齢83.0±7.8才の通所リハ利用中で、かつ主治医から定期的な内科外来通院が必要と診断された、後期虚弱高齢者45名を転倒経験群15名、非転倒群30名に分けて比較検討した。方法:握力・開眼片脚立位(以下OS)・最大一歩幅(以下MS)・10m最大歩行速度(MWS)・椅子からの立ち上がり時間(以下STS)と認知症老人の日常生活自立度(以下CJ)・障害老人の日常生活自立度(以下SJ)・家庭内役割・HDS-Rについて、因子間の関連を比較検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に則った研究であり、対象及び対象の家族は本研究の説明に対して文書で同意を得た後に研究を開始した。【結果】 OS、MSおよび家庭内役割を持つ者の割合が、転倒群で有意に低かった。転倒回数と各因子との関連では、家庭内役割・MS・握力・OS・MWS・CJおよびSJと関係があり、もっとも関係が深かったのはCJだった。歩行速度別では、0.86m/sec以上で転倒回数が多かった。【考察】 転倒は、総合的・複合的な能力に左右され、転倒回数は活動機会が多いほど増える傾向にあった。したがって、虚弱後期高齢者の転倒要因は、さまざまな要因が複雑に関与するため、単に歩行速度を改善するだけの介入では不十分であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 従来の研究では、認知症の重症化とともに転倒リスクが高まるとされていたり、歩行速度の向上が転倒予防に有効とされていたが、今回対象とした虚弱後期高齢者では、認知症や歩行速度との関連は低く、認知能力と身体能力が複合した総合能力と転倒予防との関連が大きかった。したがって、総合能力向上が期待できるメニューの選択が、虚弱後期高齢者の転倒予防につながる可能性が高いことが示唆された。