抄録
【はじめに、目的】 慢性心不全(CHF)患者の運動耐容能は,生命予後との関連については多くの報告がある。また心疾患患者のリスク層別化において,運動耐容能5METs 未満は,高リスクに分類され,さらにこれは生命予後やADL低下の要因の一つとされている。我々はこれまで高齢CHF患者において,運動耐容能と膝伸展筋力および推算糸球体濾過量(eGFR)は関連があることを報告した。さらに,運動耐容能5METsを判別する指標として,膝伸展筋力とeGFRのカットオフ値を算出し,それぞれ1.6Nm/kg,47.0ml/分/1.73m2であると報告した。しかし,高齢CHF患者で膝伸展筋力とeGFRの両指標のカットオフ値を用いることで,運動耐容能5METsが実際に予測可能か否かは明らかとなっていない。また両指標を併用する意義についても不明である。本研究では,“高齢CHF患者の運動耐容能5METsレベルを膝伸展筋力とeGFRの2つの指標を用いることで予測できる”という仮説を立て,それを検証すべく以下の検討を行った。本研究の目的は,高齢CHF患者において運動耐容能5METsは,膝伸展筋力とeGFRを用いて予測可能か,また両指標を併用する意義について明らかにすることである。【方法】 対象は,当院の外来にて心肺運動負荷試験(CPX)を施行した,NYHA心機能分類1~3の高齢男性CHF患者62例である。除外基準は,65歳未満,CPX中に心電図上の虚血や不整脈のため途中終了した症例,負荷終了時ガス交換比が1.0未満の例とした。患者背景として,年齢,Body Mass Index(BMI),ヘモグロビン(Hgb), eGFR,脳性ナトリウムペプチド (BNP),左室駆出率 (LVEF) は診療録より後方視的に調査した。最高酸素摂取量は,自転車エルゴメータによる症候限界性CPXより算出し,得られた最高酸素摂取量を体重で除した値(ml/kg/min)が用いられた。膝伸展筋力は,角速度60°/秒で得た最大筋力を体重で除した値(Nm/kg)が用いられた。対象者は我々の先行研究(2011)を基に,膝伸展筋力は1.6 Nm/kg,eGFRは47.0 ml/分/1.73m2をカットオフ値とし,4群に選別された(A群:両指標ともカットオフ値以上,B群:膝伸展筋力のみカットオフ値以上,C群:eGFRのみカットオフ値以上,D群:両指標ともカットオフ値未満)。統計解析は,まず4群間の各指標の比較には,Kruskal Wallis検定を用いた。次に,群ごとに5METsに到達した割合を算出した。最後に,χ2検定を用い,各群の割合を比較検討した。なお,統計的有意判定基準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,当大学生命倫理委員会の承認を得て実施された(承認番号:第340号)。本研究を施行に際し,我々は対象者に,研究の趣旨,内容および調査結果の取り扱い等に関して説明し,書面にて同意を得た。【結果】 患者背景の各指標の平均値をA群からD群の順に以下に示す。年齢は71.3,70.9,72.5,73.8歳,BMIは21.9,24.3,24.2,22.9 kg/ m2,BNPは228.7,300.7,163.0,370.2 pg/ml,LVEFは46.3,34.9,42.4,35.1%であり,4群間に有意差は認めなかった。一方,Hgbは13.8,12.0,13.2,11.9g/dl(p=0.016)であり,4群間に主効果を認めた。次に,各群における5 METs到達の割合は,A群が70%(5METs以上14/未満6例),B群が75.0%(6/2例),C群が47.1%(8/9例),そしてD群が0%(0/17例)であった。各群で5METs到達の割合を比較した結果,A群は他の群に比し高値を,D群では有意に低値を示した(p<0.001)。【考察】 本研究より,高齢CHF患者における膝伸展筋力とeGFRは,運動耐容能5METsレベルの推察に有用な指標であることが示された。さらにA群とD群においては,運動耐容能5METsレベル到達の可否を高い割合で判別することが可能であった。以上より高齢CHF患者において5METsレベルを予測するには,両指標のカットオフ値を併用することで,より有用性が高まると考えられた。また,各指標単独による5METsレベルの予測は,両指標を併用した時よりも劣り,特にeGFR単独では困難であるものと思われた。【理学療法学研究としての意義】 高齢CHF患者の運動耐容能は,膝伸展筋力とeGFRの双方がカットオフ値を下回る場合,高い割合で5METs未満となることが推察される。これらの両指標を臨床に応用することは,理学療法介入の際の個々のリスクの層別化や低体力者を推察する際の一つの指針となる可能性がある。以上より,本研究の成果は理学療法学研究において意義あるものと考えられた。