抄録
【はじめに、目的】 血液透析(HD)患者の身体活動量は、同年代の地域在住者の65%と著しく低下している(Johansen KL et al. 2000)。この低下はHD患者の生命予後を悪化させるため(Stack AG et al. 2005)、HD患者の身体活動量を高く維持させることは疾患管理上、重要な治療戦略の一つである。HD患者の身体活動量の低下には、週3回のHD治療にかかる時間的制約以外に身体機能の低下が関与するが(Painter P et al. 2000)、身体機能の低下を認めないHD患者でも、身体活動量が十分に確保されていない場合がある。一方、患者の身体活動量を増加させる手段として、行動変容の要素を取り入れた指導がなされている(Prochaska J. O. and DiClemente C. C. 1983)。この指導方法は目標行動に対する関心、目標行動から得られる利益の知覚および行動実践の程度に基づいて、対象者を前熟考ステージから維持ステージの5段階に判別し、それぞれのステージに合わせて働きかけることを特徴としている(竹中晃仁、2004)。そのため、HD患者が行動変容ステージのどの段階にいるかを把握することは効果的な指導するうえで重要だが、HD患者の身体活動量と行動変容ステージとの関係については不明な点が多い。そこで本研究は、HD患者の身体機能および行動変容ステージを調査し、身体活動量との関係について検討した。【方法】 対象は、2008年10月から2011年11月にさがみ循環器クリニックへの通院が自立していた外来HD患者123例(67±9歳、女性59例、HD期間9.0±9.0年)とし、調査前3ヵ月以内に合併症の増悪を認めた者、認知症の者は除外した。調査時に年齢、性別、body mass index、HD期間、HD導入の原疾患、合併症(心大血管疾患、運動器疾患)の有無、血清アルブミン値、ヘマトクリット値、身体機能(10m最大歩行速度、functional reach)、行動変容ステージおよび身体活動量を調査した。行動変容ステージは問診にて調査し、「運動を始めるつもりはない」と回答した者を前熟考ステージ、「運動を始めようか迷っている」を熟考ステージ、「運動を自分なりに行っている」を準備ステージ、「運動を始めて6カ月以内」を実行ステージおよび「運動を始めて6ヵ月以上」を維持ステージと分類した(運動所要量・運動指針の策定委員会、2006)。身体活動量の評価には、加速度計付歩数計(ライフコーダ、SUZUKEN)を用い、連続6日間の平均歩数が2499歩以下の者をI群、2500-4999歩をII群、5000-7499歩をIII群、7500-9999歩をIV群および10000歩以上をV群と分類した(Tudor-Locke C et al. 2009)。身体活動量の群と背景因子、身体機能および行動変容ステージの関連については一元配置分散分析とχ2検定を用いて検討した。なお、解析にはSPSS11.0J for Windowsを使用し、危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した。【結果】 対象者のうち39例(31.7%)はI群、43例(35.0%)はII群、22例(17.9%)はIII群、12例(9.7%)はIV群、7例(5.7%)はV群に分類された。背景因子については群間で有意な差異を認めなかった。I群の身体機能は他の群と比べて有意に低値を示したが(P<0.05)、II群からV群の間には有意な差異を認めなかった。行動変容ステージの前熟考ステージと熟考ステージの者の合計の割合はI群では53.2%、II群では48.5%、III群では35.0%、IV群では33.3%およびV群では0%であり、身体活動量が低下している者ほど運動の実践に至っていない者の割合が大きいことが認められた(P<0.05)。【考察】 本研究のHD患者の身体活動量には身体機能だけでなく行動変容ステージが関与していた。ChenらはHD患者に対して運動療法を実施したところ、身体機能の向上に伴い身体活動量が増加したと報告している(Chen JL et al. 2010)。本研究の対象者のうちI群の身体機能は明らかに低下していたため、身体機能の低下が身体活動量を低下させた一因であると予測できた。ただし、II群からV群の間では身体機能に差異を認めなかったため、身体機能以外にも身体活動を制限する因子が存在する可能性がある。一方で身体活動量が低い者ほど運動に対する関心の低い者あるいは関心はあるが運動を実践するまでには至っていない者の割合が大きいことが明らかになった。以上のことから、身体活動量が1日あたり2500歩未満の極めて低い群に対しては身体機能を向上させるための介入の必要性を認めたが、それ以上の群では身体機能よりもむしろ身体活動に対する関心を高める、あるいは行動変容を支援するような介入の必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 慢性経過をたどるHD患者の身体活動量と身体機能、行動変容ステージとの関係を示したことは、理学療法士がHD患者の身体活動量を増加させる効果的な介入を実践する際の一指針となり得る。