理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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新人理学療法士セッション ポスター
積極的な運動療法により運動耐容能・ADL・QOLが改善したCOPD合併肺癌患者
福島 飛鳥木原 一晃野添 匡史和田 智之島田 憲二福田 能啓道免 和久
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キーワード: 肺癌, COPD, 運動療法
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p. Df0860

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抄録

【はじめに】 近年、肺癌患者に対するリハビリテーション(リハ)の有効性が指摘されているが、実際の臨床場面では様々な症状を合併しその実施が困難な状況も少なくない。今回我々はCOPDを合併し息切れが著明な肺癌患者に対して、癌の進行程度や全身状態の変化に留意しながら積極的な運動療法を実施し、運動耐容能とADL、QOLの改善が得られた症例を経験したので報告する。【症例紹介】 60歳代男性。X-5年に労作時呼吸困難感が出現し当院内科を受診、COPDと診断。その後当院内科にて経過観察され、X年5月に肺線癌(肺癌病期stage分類IIA)と診断。外科的切除術適応であったが本人の希望にて保存的治療を実施。2ヶ月間の入院による化学療法の後、外来で化学療法のため週1度の通院を継続。その間在宅での活動量は減少し息切れも増強していた。その後8月末より発熱、呼吸困難感の増強が見られ、9月上旬に当院内科を受診し肺炎と診断。入院と同時に化学療法は中止となり、抗生剤、気管支拡張剤を中心とした薬物療法が開始。入院時の胸部X線所見では、両側上葉の透過性亢進と両下葉に炎症・線維化を伴う網状陰影が認められ、胸部CT所見では左S10領域に肺腺癌の結節陰影が認められていた。【説明と同意】 症例に対して本研究の趣旨を説明し、書面にて同意を得た。【経過】 理学療法(PT)は入院第3病日より開始。PT介入当初より肺癌に対する化学療法は中止されており、嘔吐などの副作用は概ね認めなかった。介入当初はまず離床を行い、肺炎の治癒に伴って第7病日よりリハ室へ出棟して行った。呼吸機能としてFEV1.0は0.57ℓ(%FEV1.0:18.7%)であり、最重度の気道閉塞を呈していた。MRC息切れスケールはGrade4、Performance Status(PS)は3で強い息切れのために活動量の低下が顕著であった。6分間歩行距離においても、強い息切れのために途中で中断し120mと低値を示した。NRADLは36点で、移動、階段、整容、入浴で主に減点されていた。SGRQの症状項目は56.7点、活動項目は92.7点、影響項目は21.3点で、特に活動、症状での低下が顕著であった。免疫能の指標である総リンパ球数は低値を示すものの、栄養状態は比較的維持されていた。また、心理面においてもリハに対する意欲は高かった。PTでは労作時の息切れ軽減や運動耐容能向上を目的に呼吸筋・胸郭ストレッチ、上下肢筋力トレーニング、全身持久力トレーニングを実施した。特に全身持久力トレーニングは歩行、トレッドミル、自転車エルゴメーターを用いたが、労作時の低酸素血症が著名なためにインターバル形式にて行った。運動の負荷設定基準はSpO2が88%以上、脈拍数120回/分以下、息切れは修正BorgScaleで5以下とした。上記のプログラムを可能な限り長時間実施し、平均して1日1時間半以上、週5回の頻度で施行した。経過中に肺腺癌、免疫能、栄養状態の悪化は見られず、徐々に運動負荷を増強しながら実施した。第25病日には退院許可が下り、MRCはGrade3、PSは2へ改善し、6分間歩行距離も210mへ改善した。ADLにおいては整容・更衣動作がスムーズになり、移動時の息切れが軽減することでNRADLは64点に改善した。SGRQは症状項目で51.5点、活動項目で86.7点、影響項目で 20.0点となり、全項目で改善し、特に活動と症状の項目での改善が著明であった。そして3日後の第28病日に自宅退院となった。【考察】 一般的な癌患者は化学療法の副作用で骨髄抑制による貧血や消化器症状・倦怠感が生じやすく、また癌細胞の代謝作用として悪液質による蛋白異化亢進を引き起こしやすい。結果、癌患者は他疾患患者よりも筋力低下や栄養障害が生じやすく、息切れも増強することで運動耐容能が低下しやすい。一方、本症例においては前述の問題に加え、COPDの合併によって労作時の息切れをより増悪させ、不活動により運動耐容能とADL、QOLの低下を招いていた。しかし理学療法実施期間中は化学療法を中止していたことも功奏し、栄養障害を中心とした副作用が見られず、積極的な運動療法が可能となり3週間という短期間であっても十分な効果が得られたと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 最重度のCOPDを合併した肺癌患者であっても、適切な理学療法の実施は運動耐容能やADL、QOLを改善させることが示唆された。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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