理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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新人理学療法士セッション ポスター
両側閉塞性動脈硬化症バイパス術後、創傷治癒遅延に伴う疼痛により運動が困難であった症例
─反重力トレッドミル使用による歩行能力低下予防効果─
平田 理紗鈴木 裕也田中 潔
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p. Df0859

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抄録
【はじめに】 閉塞性動脈硬化症(以下PAD)は近年増加傾向であり、ガイドラインでは有酸素運動の強度を中等度に設定する事が推奨されている。しかしPADは動脈硬化性疾患の一つであるため全身血管病変に伴う共存症が多く、臨床では中等度の強度での有酸素運動が困難な場面も多い。今回、複数の全身血管病変を既往とした症例が糖尿病を背景とした術後の創傷治癒遅延に伴う創痛の長期化により運動の継続が困難であった。運動の継続に対し、反重力トレッドミルを使用することで歩行能力低下の予防に効果があったためここに報告する。【症例紹介】 年齢:76歳男性,BMI:26.0,HbA1C:5.8,診断名:両下肢閉塞性動脈硬化症,主訴:指が痛い,現病歴:2011年6月に左第4趾に壊疽を認めPAD疑いにて精査加療目的で入院となった。その後下肢血管造影にて右外腸骨動脈および左大腿動脈狭窄を認め、膝下には多発性の病変を認めた為、inflow改善目的にて外腸骨動脈に対して血管内治療を施行した。その後左膝下膝窩-外側足底動脈バイパス術(以下BK-POP-LPL bypass)の方針となり、廃用予防目的にて術前理学療法介入となった。既往歴:狭心症にて経皮的インターベンション、冠動脈バイパス術後,脳梗塞,糖尿病性腎不全(腎透析),入院前生活:妻と二人暮らし。500m程度の屋外杖歩行可能であったが足趾の疼痛により屋内生活となっていた。【説明と同意】 本症例には今回の発表の主旨を説明し、同意を得た。【経過】 BK-POP-LPL bypass術後3病日より起立・歩行練習開始し、運動負荷は呼吸循環動態をモニタリングするともにBorgスケールにて決定した。介入時は創部の荷重時痛により杖歩行120m、膝伸展筋力はHandHeldDynamometerにて右/左:110/98.6(N)、起立は軽介助レベルであった。ADLはBarthelIndex(以下BI)75点でPerformanceStatus(以下PS)2であった。8病日より創痛増悪し、杖歩行40mとなった。22病日より創嘴開状態となり歩行困難となったため歩行練習を中止し、他動的自転車エルゴメーターを20minより開始した。その時の筋力は右/左:101/90.2(N)、PS3、BIは65点と低下を認めた。31病日で荷重時や自転車エルゴメーターでの膝屈曲で創嘴開が増悪するため継続困難となり、Tilttableにて右下肢の片脚起立練習、上肢・体幹筋力強化練習に変更した。37病日より当院麻酔科医の介入により左下肢大腿・坐骨持続神経ブロックにて鎮痛を図ったが、左下肢の脱力に加え、右下肢の疼痛も増強したため片脚起立練習も困難となり車椅子駆動練習に変更した。50病日目に、創の状態安定後に右膝下膝窩-前脛骨動脈バイパス術施行。その後、荷重時痛軽減目的に荷重量調節可能な反重力トレッドミルを71病日から開始した。運動負荷はNaughton法に従い、15minから開始し、徐々に負荷量増加、運動時間の延長を図り、最終的に35minの運動が可能となった。92病日より歩行器歩行自立にて100mの歩行が可能となり、PS2、BIは85点と改善が認められた。97病日では右/左:110/90.6(N)と筋力は向上し、杖歩行近接監視レベルで60mの歩行が可能となり、100病日に転院となった。【考察】 本症例は、糖尿病を背景とした術後の創傷治癒遅延に伴う創痛の長期化により運動の継続が困難であった。また非透析日の理学療法の介入といった活動制限からbk-pop lpl bypass術後31病日ではPS3、BIが65点まで低下していた。歩行困難となった主な要因としては荷重時の創痛が挙げられた。反荷重トレッドミルは歩行時の床反力を減少させることが証明されている。よって本症例は歩行時の創痛を軽減できたことで運動の継続が可能となった。重症下肢虚血患者の5年生存率は低く、死亡原因として虚血性心疾患が多く占めることが報告されている。よって心血管を含めた全身管理が重要であり、運動の継続が可能であった利点は大きいといえる。本症例は長期間運動が困難であったにも関わらず、反重力トレッドミル開始から約1カ月で歩行困難な状態から杖歩行近接監視にて60mの歩行が可能となり、筋力の向上に加え、PS2、BIが85点とADLの改善を得た。よって本症例において反重力トレッドミルは有効であったといえる。【理学療法研究としての意義】 術後の創傷治癒遅延による創痛により歩行困難な症例に対して、運動の継続に反重力トレッドミルは有効であり、歩行能力低下を予防できるといえる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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