抄録
【背景と目的】 高齢化社会がすすみ、老老介護や医療の地域格差などの社会問題がとりあげられている。一方で急性期医療の在院日数短縮化や療養型病床の削減などの施策も影響し、在宅医療・在宅介護が推進され自宅療養を選択する患者も増えている。当法人では三次救急の急性期医療、地域のがん拠点病院としての機能する亀田総合病院を母体とし、訪問看護ステーションからの訪問看護7で訪問リハビリテーション(以下;訪問リハ)を提供し、患者とその家族の在宅療養生活をサポートしている。今回、訪問リハ専従セラピストとして在宅医療に携わる機会を得て、運動療法の実施に苦慮するような心不全や呼吸不全、腎不全といった併存疾患を有する患者や、後遺症が重度に残存して介護度の重い寝たきり状態の患者、癌などの医療依存度の高い患者への介入を経験した。その経験から当センターの訪問リハ利用者の特性を調査し、訪問リハセラピストに求められる能力に関して考察したので報告する。【方法】 2011年2月1日から10月30日までの期間中に当センターの訪問リハを利用した38名を対象とした。電子カルテから以下の項目、(1)年齢、(2)性別、(3)主病名、(4)併存疾患、(5)要介護度、(6)往診・訪問看護の利用有無、(7)医学的管理物、(8)転帰(再入院の有無など)、を後方視的に調査した。【説明と同意】 調査の対象となった訪問リハ利用者またはその家族に対し、個人情報の使用および調査目的の情報活用に関して口頭にて説明を行い、同意を得た。調査によって得られた情報は、個人が特定できないようにID化して厳重に管理した。【結果】 対象の平均年齢は80.0歳(55-101)、主病名から分類した疾患内訳では、脳血管障害11名、廃用症候群10名、脊椎・下肢骨折7名、脊髄損傷4名、内部障害3名、その他(神経難病、癌、頭部外傷)3名。併存疾患では心房細動と糖尿病は対象の26%が罹患しており、認知症が24%、心不全は18%が罹患していた。要介護度は中央値が4、介護度3以上が79%を占めていた。医師の往診や訪問看護は53%が利用しており、約半数の利用者は訪問リハのみが単独介入であった。医学的管理物では、膀胱留置カテーテル使用者が多く7名、胃瘻・経鼻栄養管理が3名、HOT、ペースメーカーまたはICD、ストーマ、ブラッドアクセスはそれぞれ2名使用していた。転帰状況では、状態悪化などによる再入院なく自宅療養を継続できたのが27名。そのうち24名はその後も訪問リハを継続、目標を達成して終了が2名、適応はあるが継続の希望がなく終了が1名。また訪問リハの導入開始から調査期間までの経過中に再入院となったのは11名で、その後退院して訪問リハを再開したのは5名、中止が2名、施設転所のため終了が1名、死亡にて終了は3名であった。また、調査期間内の訪問リハ介入中に容態が急変して救急搬送となった事例が1件、救急受診には至らなかったが意識消失して急変時対応を行った事例を1件経験した。【考察】 本調査は当センターの訪問リハ利用者の一部を対象として実施したが、高齢で介護度が比較的重度、かつ不整脈や糖尿病、心疾患や認知症といった在宅療養生活をおびやかすアクシデント(再発や状態の急変、転倒など)のリスクとなる併存疾患を有している利用者が比較的多く存在していた。また、生命維持に必要な呼吸・循環、栄養、排泄に関わる医学的管理物を留置して在宅療養を継続している利用者も少なくなかった。これは在宅医療や介護体制が整備されているから可能ではあるが、退院先が自宅以外に選択肢がない、後方施設が少ない地域特性も多分に影響していると考えられた。そのような状況下でも状態悪化による再入院を29%にとどめて、在宅療養生活を継続できていたことは訪問リハの介入意義として大きい。また医師による往診や訪問看護を利用していない利用者が約半数を占めており、全身状態の観察など健康管理面で医学的役割を担う必要性と共に、高齢障害者におけるリハビリニーズ(寝たきりや廃用の予防)も感じられた。調査結果と訪問リハに携わった経験知から、幅広い領域の基礎医学知識や有害事象の際の対処法を含めたリスクマネージメント能力を備えておくことは、安心・安全な訪問リハを提供するために、訪問リハセラピストにとって必要な技能ではないかと考える。【理学療法研究としての意義】 訪問リハの対象はさまざまな疾患や障害を有し、個別性が高い。利用者の特性を把握し、その情報を共有することにより共通認識のもとで安全で安定した在宅療養計画を立案できる。今後も更にニーズの拡大が予測される在宅医療の分野において、安心・安全かつ効果的な訪問リハを提供するために、訪問リハセラピストの教育研修体制や学問的体系を整備する必要がある。