抄録
【はじめに、目的】 介護保険制度が施行され、今日まで改定を繰り返し、介護保険を利用したリハビリテーションの利用が普及しつつある。訪問リハビリテーション(訪問リハビリ)の需要が増えている中、訪問リハビリに関連した報告では利用者に及ぼす影響についての報告が大多数を占める。その一方、訪問リハビリが介護者の介護負担に与える影響に関した報告は少なく、サービス介入前後における寄与効果については報告が無い。これらから訪問リハビリの介入前後において、主介護者の介護負担感に何らかの影響を及ぼしていることが予測されるため、介護者を対象に介護負担感及び精神的健康度を調査した。【方法】 対象者は県内の介護保険事業施設(訪問看護ステーションなど)の利用者の主介護者であり、利用者は要介護・支援認定を受け、週に1度以上、訪問リハビリを導入する者とした。(1)調査期間内に他のリハビリテーションサービスを利用した場合。(2)介護者が主治医から認知症と診断されている場合。(3)研究者が担当する利用者の場合は対象者から除外した。対象者の選定は、研究協力に同意した施設長から紹介を受けた者のみとした。調査方法は日本語版Zarit介護負担尺度(J-ZBI)、日本版General Health Questionnaire 28(GHQ28)、基礎情報の3つの質問紙を用いた。調査時期は介入前(訪問リハビリの開始日)、介入後(開始3カ月後)の2回である。なお基礎情報の質問項目には介護度、Barthel Index(BI)、障害老人の日常生活自立度判定基準(寝たきり度)および主介護者の年齢、性別、介護歴等について主介護者に記載してもらい、BIと寝たきり度については訪問担当セラピストが評価を実施した。基礎情報における介入前後の調査データの比較をMann-Whitney’s U testを用いて検定した。またBIの合計点、J-ZBI及びGHQ-28の得点の介入前後の比較をウィルコクソン符号付順位和検定を用いて検定した。また介入後のJ-ZBIの下位尺度と関連性の高い因子を検討するために、基礎情報との相関関係をPearsonの相関分析を用いて分析した。統計処理上の有意水準を危険率5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は金沢大学医学倫理委員会にて承認されて行ったものであり、対象者には研究の目的と方法について十分に説明を実施し、自由意思に基づく研究参加の同意を得た。【結果】 研究協力が得られた2施設から11名の対象者の紹介があり調査を開始した。そのうち7名(63.6%)が調査を終了した。対象者は全て女性であり、平均年齢68.3歳、最年長86歳、最年少56歳であった。介護度、BI、寝たきり度のデータにおいて介入前後との間に有意差を認めなかった。J-ZBIの介入前後の総得点に関して、介入前の平均点は20.3(±10.5)点であり、介入後の平均点は14.1(±7.4)点であった。介入前より介入後の平均点が有意に低かった(p<0.05)。下位尺度であるPersonal Strain(PS尺度)とRole Strain(RS尺度)に関して、 PS尺度では介入前より介入後の平均点が有意に低かった(p<0.05)。 RS尺度における平均点は介入前後に有意差を認めなかった。GHQ-28の総得点の平均点は介入前では4.4(±3.0)点であり、介入後は2.9(±2.7)点であり、介入後の平均得点が有意に低かった(p<0.05)。PS尺度およびRS尺度ともに相関係数が0.7以上で有意水準が5%未満の項目は1因子が該当し、GHQ-28の下位尺度である不安と不眠であった。【考察】 今回の結果において、訪問リハビリ介入後は、J-ZBIの総得点およびPS尺度の得点が有意に低かったが、RS尺度には有意差を認めなかった。PS尺度は介護を必要とする状況に対する否定的な感情の程度を表す尺度とされており、主に介護に対する否定的な感情が軽減したと考えられた。定期的な訪問リハビリを受けている利用者を対象に、ベースライン時と3カ月後にJ-ZBI 8を用いて追跡調査を実施した報告では、介護負担感の軽減を認めなかったが、今回の研究では新規に訪問リハビリを導入する利用者の介護者と3カ月経過した介護者を比較検討しているため、介護者が行ってきた介護方法や認識していた知識を修正できる可能性が高く、心理状態の改善が得やすいため、訪問リハビリが直接的に介護負担感に対して良好に働いたと思われる。介入前後のBI及び介護度・寝たきり度に変化を有意に認めなかった事や介入後にGHQ28の得点が有意に減少した事からも利用者の動作能力の変化に伴う改善よりも、主介護者の疑問の解決や介護方法の助言等の寄与によって不安が解消し、改善した可能性が推察される。【理学療法学研究としての意義】 今回、訪問リハビリを導入する利用者の介護者に焦点を当て調査を実施した。結果、訪問リハビリを導入することで介護負担感が軽減することが示唆された。本研究より得られた知見は今後の訪問リハビリテーションの展開していく上での一助になると考えられる。