理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
在宅要介護高齢者の心身機能とBarthel Indexの関連
─女性要介護高齢者における検討─
齋藤 崇志大森 祐三子大森 豊
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p. Ea0359

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抄録
【はじめに、目的】 在宅要介護高齢者の基本的な日常生活活動(BADL)能力の維持、改善を図ることは、訪問理学療法(訪問PT)に求められる重要な役割である。高齢者のBADL能力と心身機能の関連を調査した先行研究によると、心身機能が一定のカットオフ値(CP)を超えると、BADL能力に障害を来たす可能性が高まることが報告されている。在宅要介護高齢者においても、BADL能力が障害され始める心身機能のCPが存在すると推測される。このCPが明らかになれば、訪問PTにおいてBADL能力に関する評価・介入が必要な在宅要介護高齢者を的確に判別することが可能となる。また、医療機関に入院している高齢者が自宅退院するために必要な心身機能の改善目標値の1つとすることも可能と考える。本研究では、BADL能力の指標としてBarthel Index(BI)を用い、女性在宅要介護高齢者のBIに関連する心身機能要因を検討した。そしてBIが100点満点の者と100点未満の者を判別するための心身機能のCPを明らかにすることを目的とした。【方法】 対象者はデイサービスを利用している女性在宅要介護高齢者186名の内、取り込み基準(下肢関節の荷重痛を有する者、中枢・末梢神経障害を有する者、著明な認知機能低下を有する者は除く)を満たす77名であった。対象者の平均年齢は84.8歳、介護度は要支援が26名、要介護1-2が42名、要介護3以上が7名、非該当が2名であった。主たる疾患の内訳は、整形外科疾患40名、呼吸循環器疾患17名、内科疾患9名、精神疾患が7名、その他が4名であった。心身機能の指標は、関節可動域の指標として股関節と膝関節の屈曲角度を、筋力の指標として握力と等尺性膝伸展筋力体重比を、立位バランスの指標として開眼片脚立位保持時間とFunctional Reach Test(FRT)を、認知機能の指標としてMini-Mental State Examinationを用いた。BADL能力の指標としてはBIを用い、対象者への問診により評価した。また、過去1年間における転倒経験の有無を聴取した。統計解析は、対象者をBIが100点の者(I群)と100点未満の者(D群)の2群に分類し、一般属性と心身機能、転倒歴について対応のないt検定とχ2乗検定を用いて群間比較を行った。次に、群間比較で有意な差が認められた変数を独立変数、BI得点分類(D群=0、I群=1)を従属変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った。最後に、多重ロジスティック回帰分析により有意な関連が認められた独立変数を検定変数とした受診者動作特性解析(ROC解析)を行い、D群を判別するためのCPを求めた。CPはYouden Index が最大となる値とした。統計解析には、IBM SPSS Statistics 18を用い、両側検定で危険率5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 所属会社の倫理規定に従い、被験者に対して事前に本研究の目的や内容等を説明し同意を得た。【結果】 I群(39名)とD群(38名)を比較した結果、年齢とFRTに有意な差が認められた。転倒歴については群間で有意な差を認めなかったが、I群の15名、D群の10名が転倒歴を有していた。年齢とFRTを独立変数とする多重ロジスティック回帰分析の結果、いずれの独立変数もBI得点分類と有意な関連を認め、オッズ比はそれぞれ0.891(95%信頼区間0.808-0.982)と1.177(95%信頼区間1.049-1.321)であった。FRTを検定変数としてROC解析を行った結果、曲線下面積は0.694(p=0.003)であり、Youden Indexが最大となる値は20.7cmであった。全対象者77名をこの値をCPとして判別した場合の判別精度は、感度が63.2%、特異度が69.2%であった。【考察】 FRTが20.7cmを下回る女性在宅要介護高齢者はBADL障害を有する可能性が高く、BADLに対する評価・介入が重要であると考えた。ただし、CPを下回る対象者のみならず、CPを上回る対象者の中にも転倒歴を有している者が存在しており、転倒リスクを抱えた状態でBADLが自立している女性在宅要介護高齢者が存在すると考えられた。訪問PTでは、BADLの維持、改善を図るための評価・介入と共に、転倒に対する評価・介入を併用していくことが必要と考えられた。【理学療法学研究としての意義】 FRTは女性在宅要介護高齢者のBADLの自立の可否を判別することが可能であった。訪問PTにおける評価方法の1つとして、FRTの有用性を示した点が本研究の理学療法研究としての意義である。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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