抄録
【はじめに、目的】 我々はH22、脳卒中者への訪問リハビリテーション(訪問リハ)の効果判定をFIMにより行い、回復期・慢性期両群において効果が得られることを報告した。しかし臨床的に、訪問リハでは様々な障害像・環境の対象者が存在し FIM以外の評価も必要となることが多い。脳卒中者への訪問リハの効果についての先行研究では、ADL向上効果、歩行能力、家事、外出能力等が向上するといわれているが、どのような項目で訪問リハの効果が得られるかを詳細に調べたものは見られない。今回の研究目的は、脳卒中者へ訪問リハはどのようなことに効果を及ぼすのかを調査することである。そしてこの調査結果を、今後訪問リハの効果判定をどのように行っていくかを考える一助としたいと考える。【方法】 対象は訪問看護ステーションに訪問リハの新規依頼があり訪問開始した脳卒中者76名である。評価は訪問開始時と開始6カ月後の2回行った。評価は担当セラピストが行い、評価は「FIM」と「FIM以外で改善した部分のセラピスト自由記載」の2つをおこなった。そして評価結果をFIMで1点以上変化したもの、自由記載の中でセラピストが改善したとする者を改善とした。分析方法はFIMで改善、またFIMとFIM以外で改善した者(FIM改善群)と、FIMで改善しなかったがFIM以外で改善した者(FIM以外改善群)に分類し、それぞれの人数を比較した。またどの項目で改善が見られたかを検討するため、項目毎の改善した延べ人数を集計した。さらに訪問開始時点での発症からの期間により、対象者を回復期(1年以内)・慢性期(1年以上)に分類し検討した。【説明と同意】 対象者には評価を行うことと評価結果を使用することの同意を得た。【結果】 回復期群でFIM改善群、FIM以外改善群はそれぞれ35人、1人であり、慢性期群ではFIM改善群、FIM以外改善群はそれぞれ26人、10人、効果が見られなかった者は4人であった。慢性期群では回復期群に比べFIM以外改善群が有意に多かった(χ2検定、p<0.01)。具体的項目で改善がみられた延べ人数は、FIMで331人、FIM以外で114人(FIM以外比率26%)であった。また発症からの期間での分類では回復期のFIMで225人、FIM以外で57人(FIM以外比率20%)、慢性期のFIMで105人、FIM以外で57人(FIM以外比率35%)であった。回復期群ではFIM項目で歩行(21人)、階段(20人)、移乗ベッド(18人)等が多く、FIM以外の項目では床からの立ち上がり(10人)、玄関の出入り(6名)、立位バランス向上(6名)であった。慢性期群ではFIM項目で歩行(17名)、階段(12名)、移乗車椅子(11名)、またFIM以外の項目では床から立ち上がり(14名)、外出機会の増加(9人)、電動車椅子の導入(4名) であった。またその他のFIM以外の項目としては歩行距離の延長や痛みの減少、転倒回数の減少等が挙げられた。【考察】 今回の結果から、訪問リハで効果が得られる項目毎の延べ人数の合計数の割合はFIMでは74%、FIM以外では26%であった。この結果は予想よりFIMで評価できる部分が多くFIMの有用性が再確認できた。しかし逆に約26%のケースではFIM以外の評価を用いないと評価できないことが明らかにされた。特に慢性期群ではFIM以外で改善したものが多く、FIM以外の評価を行う必要性が示唆された。これらのことを踏まえ今後は訪問リハの評価を見直していくべきだろう。それではFIM以外ではどのような項目を評価すべきだろうか。特に評価すべき項目は床からの立ち上がりである。これは特に我々セラピストの介入がないと挑戦しにくい動作だが効果が得られやすい動作である。また波及効果として転倒後の介護負担の軽減や、コタツに座れるといったQOL向上、歩行能力向上等がありメリットが非常に大きい。評価としては床からの立ち上がり能力と介護負担感などは最低限評価しておくべきであろう。また床からの立ち上がりの他にも、外出機会の増加、電動車椅子の導入、歩行距離の延長、転倒回数の減少等でも効果が得られた。この項目は生活の広がりや、転ばない自信、休まず歩ける距離等を含んだE-SAS(イーサス)を利用することである程度評価できると思われる。E-SASは対象者の活動的な地域生活の営みの獲得を評価するものであり、ある程度移動能力の高い対象者であればFIMの社会的交流等も含んだ総合的な評価として脳卒中者への訪問リハでも適応できるのではないだろうか。本研究の課題としてはFIM以外の改善項目はセラピストの主観により評価されており、定量的な評価ではないことがあげられる。今後は本結果を参考にFIMで効果を表せない部分に関しても定量的に評価を行い、さらに訪問リハの効果を明確にしていきたいと考える。【理学療法学研究としての意義】 訪問リハを脳卒中者に提供することで、FIM以外のどんな項目を改善するかを明らかにした。今後訪問リハの効果判定を行う一助としたい。