抄録
【はじめに、目的】 介護保険制度が施行されて以来、在宅療養高齢者のケア環境は改善してきた。しかし、高齢者ケアの場は、さらに施設や病院から在宅へと移行が進められており、その意味では制度設計時には想定していなかった高齢者が、在宅療養を行う場合も考えられ課題はより大きくなっている。平成18年の改正で、地域包括支援センターが設置され、組織的に困難事例への対応がなされることになったが、設置から5年を経過した現在でも、困難事例対応業務量が過大であることからも推察される。困難事例の解消のための、技術の向上や制度の改正も含めた検討が必要である。学術的にも、多くの課題が指摘されているが、それぞれの専門職の立場に立って、マンパワーの不足を訴えるもので有り、どのような障害像をもつ高齢者が、困難事例となりやすいのかという、被支援者の実態を捉えた上での報告はない。そこで本研究では、地域包括支援センターを対象に、困難事例調査を行い、どのような高齢者が困難事例となりやすいのかを明らかにすることを目的とした。ただし、困難事例の背景は、多様であることが考えられ、またこれまでの研究で、理論モデルが構築されていないことから、因子を特定する以前の研究として、探索的に要因を探ることを目的とした。【方法】 東京都内の地域包括支援センター359カ所に、困難事例について郵送調査を行った。調査期間は平成21年6月から10月であった。多肢選択と自由記述を交えた調査用紙を作成した。自由記述の解析には、Text Mining (SPSS)を用い、構文を分析し、品詞毎の出現数を計量した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、中年からの老化予防長期縦断研究の一部として行われ、機関の倫理委員会で承認された。無記名で行い、調査の趣旨を説明し、調査の趣旨に同意したものに返送をお願いした。【結果】 回収率は43.5%であった。現在のサービスで対応できない困難事例として、81事例が報告された。主な疾患では、認知症28例、循環器疾患24例、整形外科疾患12例、認知症を除く精神疾患9例(複数回答)、であった。症状の安定性については、不安定が23.5%、やや不安定が42.0%、やや安定が18.5%、安定が7.4%であった。その他、日中独居、軽度という言葉の出現頻度が高かった。【考察】 障害が重度であるためにサービス量が足りなくなることから、困難事例となるのでは無いかと仮説し調査を実施したが、本研究の結果から、むしろ軽度、しかし、症状の不安定なもので、認知機能に低下のある独居、あるいは日中独居の症例が多いことがわかった。介護保険は、脳卒中モデルでそのサービス体系が作られてきたが、リハの障害像に当てはめると、多発性硬化症モデルで、症状の増悪、寛解を繰り返し、次第に悪化していくモデルへの支援がしにくいことが、困難事例となっていることが考えられた。これを改善するためには、要介護認定に、その障害像の経過を加味する必要があると思われる。また、このような不安定な症例では、医療機関との連携が重要になり、通所介護ではなく、むしろ通所リハビリ、訪問介護ではなく、訪問リハビリといった選択肢がより選択しやすい環境におくべきでは無いかと考えられた。また、有床診療所の活用など、地域でより医療ケアを受けられる、体制の構築も必要であると考えられる。診療報酬の改定では、現在のサービス体系を基に、報酬の分配を議論しているが、それに止まらず、困難事例のケーススタディーを通じて、制度の欠陥を補う議論が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】 理学療法で蓄積した、障害モデルの考え方は重要である。にもかかわらず、在宅療養高齢者のケアでは、それを語られることがなく、個別のサービスの多寡についての議論になってしまう。理学療法学として、あらためて障害モデルを考え、現在の地域のニーズを捉えることは意義が大きいと考える。