抄録
【はじめに、目的】 わが国のニュータウンは大半が昭和30年後半から昭和40年代に建設され、初期入居者の年齢層が偏っているという特徴がある。そのため、近年ではニュータウンの住民の高齢化が一斉に生じ、その対策が全国的な課題となっている。ニュータウンは、都市部で雇用労働者として働く者のベッドタウンとなっており、男性の多くは地域から離れた職場で青壮年期の長い時間を過ごしている。そのため、男性は地域住民との交流が乏しい状態で定年を迎えている可能性が高い。また、ニュータウンの賃貸集合住宅はエレベーターのない5階建て住宅が多く、外出しにくい環境であることも、地域住民との交流を妨げる要因と考えられる。地域における社会活動性の低下は、身体機能の低下やうつ傾向の原因となりやすいことが報告されており、要介護状態へ移行するハイリスク群である可能性が高い。本研究では、ニュータウンの賃貸集合住宅に居住する男性高齢者の、地域に対する愛着、地域活動と生活不安について検討することを目的とした。【方法】 平成23年3月、大阪府堺市南区の泉北ニュータウンの一地区内の全世帯(3,069世帯)に無記名自記式の質問紙調査を行った。調査項目には、日常生活の不安や主観的健康度等を問う「生活不安感」、定住意向や日常生活の満足度を問う「地域への愛着度」、近隣住民との付き合いの程度を問う「対人関係」、「外出頻度」が含まれた。それぞれの回答はリカードスケールによる選択式とした。回収数1,820(回収率58.0%)のうち、有効回答数は1,780であった。その中から、記入者の年齢が65歳以上の男性高齢者399名を分析対象者とした。住宅形態により、持家の戸建を「戸建群」、分譲の集合住宅を「分譲群」、賃貸の集合住宅を「賃貸群」とする3群に分けて比較した。分析は、住宅形態と検討項目をクロス集計し、χ2乗検定を行った。更に、賃貸群の特徴を明らかにするために、住宅形態を目的変数へ、地域への愛着度、対人関係、外出頻度、生活不安感のうち有意な関連が認められた質問肢と、年齢、世帯構成、居住年数を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とし、全ての統計解析にはSPSS14.0Jを用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 質問紙は自治会役員等によって配布され、調査への協力は任意であること、辞退や中止をしても不利益は生じないこと、調査データは厳重に管理し、調査後は破棄することを書面にて説明した。回収は指定封筒による郵送とし、個人が特定されることのないように配慮した。【結果】 住宅形態は戸建群が56.6%、分譲群が20.8%、賃貸群が22.6%であった。居住年数は、賃貸群では30年未満の者の割合が有意に高かった。「生活不安感」項目のうち、日常生活について不安があると回答した者の割合は、賃貸群37.8%と有意に高かった。複数回答による不安の内容については、健康、老後、家計の順に多く、特に、「家計」と回答した者の割合は賃貸群で有意に高かった。主観的健康度に不安があると回答した者は、賃貸群が有意に高かった。「地域への愛着度」項目では、どの質問肢でも賃貸群の愛着度の低下が示された。「対人関係」項目のうち、何でも相談できる人、緊急時に頼れる人がいないと回答した者の割合は、それぞれ18.9%、14.4%を示し、賃貸群が有意に高かった。「外出頻度」には、3群間で有意差は認められなかった。戸建群に対する賃貸群のロジスティック回帰モデルでは、「生活不安感」項目である日常生活への不安がオッズ比2.49(95%信頼区間1.28 — 4.87)、分譲群に対する賃貸群のロジスティック回帰モデルにおいても、2.72(1.18 — 6.29)を示した。【考察】 賃貸群は戸建群・分譲群と比較して、居住年数が短いという特徴が明らかになった。また、賃貸群は地域住民との交流が乏しく、健康や将来への不安があり、地域に対する愛着や地域活動の低さを調整しても、なお賃貸群の生活に対する不安は有意に認められた。賃貸群の生活に対する不安には、経済的背景など複数の要因が関連していることが示唆された。そのため、ニュータウンに居住する男性高齢者の中でも賃貸群は、特に支援の必要性が高いことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 理学療法士は地域在住の高齢者を対象にアプローチを行う機会が増加している。同一地域の居住者であっても、性別や住宅形態による特性の違いを理解することが必要であることを明らかにした。