抄録
【はじめに、目的】 回復期リハビリテーション病院である当病院では、患者の歩行自立の判断を個々のリハビリテーション担当スタッフが主観的な評価で行なっていた。この判断では評価方法があいまいで、患者ごとにバラつきが生じ、又他の病棟スタッフと連携が上手く取れず、その結果として転倒が生じたりしていた。また、若いリハビリテーション担当スタッフでは自立の判断時期が遅れ、退院間近になって歩行自立になることもあった。リハビリテーション担当スタッフのみでなく、病棟スタッフを含めて患者の歩行自立に対して共通の認識を持ち、転倒・転落を防ぐ事と担当スタッフが患者をADL場面で自立させる意識を高めるきっかけになる事を目的として、当院独自の基準を設け評価する事にした。【方法】 対象は当病院入院患者32名で、その内訳は脳血管疾患患者14名・大腿骨頸部骨折などの運動器疾患患者18名であった。今回独自に設けた9つの項目について各患者における移動形態で実際に動作を行って頂き、評価した。移動形態の内訳は、キャスター付歩行器・ピックアップ歩行器・シルバーカーが13名、杖歩行が8名、独歩が11名であった。各項目について5回連続で行えた場合に項目クリアとした。項目の内容は、1.自室にて他者と立位で対応しても姿勢を崩さない 2.自室内をふらつかず移動出来る 3.床頭台の物をとれる4.連続して約70m(病棟1周)ふらつかずに歩行が可能 5.ホールで他者とぶつからずに椅子の操作が可能 6.ふらつかず物を持って移動が可能 7.連続して約280m(病棟4周)ふらつかずに歩行が可能 8.エレベーターまたは階段での移動が可能9.目的地から自室までの道順を覚えているである。1~3の項目クリアで自室内歩行自立、1~6の項目クリアで病棟内歩行自立、1~9の項目クリアで院内歩行自立とした。検査者としてリハビリテーションスタッフのみではなく、病棟スタッフ(Ns・Cw)も参加するようにした。自立後、Timed up & Go Test (以下TUG)にて評価を行い、平均値と標準偏差を求めた。先行研究からTUGが15秒以上になると転倒リスクが上昇する事から、カットオフ値を15秒とした。【倫理的配慮、説明と同意】 実施するにあたり、対象患者には歩行自立に関わる評価と説明し、チェックシートの内容と方法について同意を得た。【結果】 評価開始から歩行自立になるまでの期間は平均(標準偏差)4.24(2.19)日で、発症から歩行自立になるまでの期間は平均(標準偏差)72.42(50.62)日であった。自立後に転倒した患者は1名。自室内歩行自立のみはおらず、病棟内歩行自立にまでレベルアップした。その後、院内歩行自立までレベルアップした患者もいた。病棟内歩行自立者は25名で、TUG平均値(標準偏差)は22.19(10.81)秒、院内歩行自立者は7名で、TUG平均値(標準偏差)は15.21(6.98)秒であった。歩行自立者全体のTUG平均値(標準偏差)は20.56(10.37)秒で、TUG平均値とカットオフ値との差は5.56秒であった。【考察】 評価したほとんどの患者で、評価開始から約1週間程度で自立していた。発症から自立になるまでの期間は平均約2ヶ月半程度であった。TUG平均はカットオフ値以上であり転倒リスクの高い患者が多いが、歩行自立後に転倒した患者は少なく、今回の評価方法を採用した事により各スタッフ間で共通した認識が培われ、患者の転倒を未然に防ぐ事が出来たものと考えられた。このように明確な基準を設けた事により、患者自身や他の病棟スタッフもゴールや問題点を把握しやすく、自立した入院生活を意識した介入が行えてきていた。その為、全ての患者で自室から出て、病棟内歩行自立となっていった。また、歩行距離の延長する院内歩行自立患者では、TUG平均値もカットオフ値に近く、当院独自の評価基準が妥当であると考えられた。今後は病院内での動作自立の評価が退院後の生活にどのように結びついているか、当院の訪問リハビリテーションチームと連携し、より良い基準の確立について検討していきたい。また、比較する評価をTUGだけでなく、Functional Independence MeasureでのADLに関連した評価やBerg Balance Scaleや10m歩行等も取り入れ、実用的な歩行速度も考慮しながら、今後の研究に役立てていきたい。今回は歩行に関して着目し報告するが、当病院では歩行以外にも移乗・トイレ動作の自立に関してチェックシート作成し、評価を実施している。【理学療法学研究としての意義】 従来、担当セラピストの主観的な判断によって、自立時の転倒や自立遅延等のADL自立への阻害因子となっていた。だが、共通の評価基準を設ける事によりそれらを防止する事が可能になると考えられ、理学療法研究として意義がある。