理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
京都市左京区における介護予防事業参加者数と転倒発生率の関連
―J-MACC study―
吉村 和也山田 実永井 宏達森 周平梶原 由布薗田 拓也西口 周青山 朋樹
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p. Ea1009

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抄録

【はじめに、目的】 高齢者の転倒は要介護に至る主たる要因の一つに挙げられており、本邦において大きな社会問題になっている。各自治体では、転倒予防を含め積極的な介護予防事業が展開されているが、その事業の転倒予防効果については十分な検証がなされていない。我々は、これらの事業を積極的に開催している地域では、事業参加者だけでなく、波及効果によって参加していない高齢者も含めて健康意識が高まり、その結果転倒発生率が抑制されるという仮説を立てた。そこで本研究では、各自治体が地域で実施している様々な介護予防事業(ここでは運動機能向上教室や転倒予防のための啓発活動のこと)への参加者数とその地域の転倒発生率との関連を明らかにし、その効果を検討することを目的とする。【方法】 本研究では京都市左京区在住の要支援・要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者24,964名を対象に、平成23年4月から8月までに回収した「基本チェックリスト」を分析対象とした。回収された6,970名(返送率27.9%)のうち、検討項目に関する欠落データを含まない6,399名を解析した。左京区を小学校区ごとにAからTの20の地域に区分し、転倒発生率を順位別した。従属変数に過去一年間での転倒の有無を、調整変数として年齢、性別、BMIを、そして独立変数にAからTの20の各地域をダミー変数化して投入した多重ロジスティック回帰分析を行い、転倒発生率が高い地域を「high risk地区」、その他の地域を「moderate地区」とした。次に、区内で実施された転倒予防に関わる事業の状況を調査するために、区内で介護予防事業を実施している9つの行政委託機関(左京区社会福祉協議会、京都市左京区地域介護予防推進センター、区内7つの地域包括支援センター)を対象に平成22年度に実施した転倒予防に関わる事業についてのアンケートを配布し、そのうち回答が得られた7機関の事業を分析対象とした。それぞれの事業を「運動教室」「啓発活動」「運動+知識教示教室」の3つの形態に分類し、地域ごとに各形態の参加者数を算出した。なお解析には、参加者数を各地域の面積で補正した値を用いた。統計解析はhigh risk地区とmoderate地区の両区間においてMann-WhitneyのU検定を用いて比較検討を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は京都大学医の倫理委員会の承認を受けて実施した。【結果】 全地域における転倒発生率は22.5%(最低:D地域18.7%、最高:B地域39.0%)であった。ロジスティック回帰分析によって、転倒発生率の最も低いD地域に対して有意に転倒発生率が高かった、B(転倒発生率39.0%、オッズ比2.78)、R(31.3%、2.05)、S(31.4%、1.79)、T(27.5%、1.64)の4地域をhigh risk地区とし、high risk地区以外の16地域をmoderate地区とした。high risk地区で開催された事業の参加者数の中央値は、運動教室で0.59人/km2、啓発活動で6.01人/km2、運動+知識教示教室で14.02人/km2であった。moderate地区では、運動教室で5.54人/km2、啓発活動で72.79人/km2、運動+知識教示教室で203.75人/km2であった。high risk地区とmoderate地区で比較したところ、moderate地区において介護予防に関わる事業への参加者数は多く、特に運動+知識教示教室では有意に参加者数が多かった(p=0.021)。【考察】 これまでにも転倒予防事業については運動教室や啓発などの有効性を示したものが報告されている。今回の研究の結果では転倒発生率はこれらの事業への参加者数が多いほど低下する傾向がみられた。さらに今回はその両者を含有した運動+知識教示教室が有効な結果を得ている事が明らかになった。これらは想定された結果ではあるが、運動、啓発単独でもそれなりの効果を得られることが示唆され、今後は費用対効果などの見地からも転倒予防事業を検証する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 近年、理学療法士の介護予防や行政の分野での活躍を目にする機会が増えてきており、今後さらに期待される分野でもある。全国の高齢者のうちおよそ7割以上が一次予防の対象となる高齢者であり、彼らに対する介護予防施策は重要なテーマの一つである。本研究は横断研究のため、これらの取り組みによる介入効果まで示すことはできない。しかし、転倒予防において、ポピュレーションアプローチの有用性や運動と知識教示の組み合わせが有効であることが示唆されたことは、理学療法士が地域に介入していくうえで重要な知見であるといえる。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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