理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
精神疾患患者に対する運動療法の効果
─体力維持と転倒予防─
細井 匠牧野 英一郎
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p. Ea1022

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抄録
【はじめに、目的】 精神科長期入院患者は活動量減少による体力低下や長期間の多剤服用,精神疾患に起因した認知機能障害などにより非常に転倒リスクの高い集団である.さらに本邦の精神科病床では高齢化が進展し,当院の精神科では66.5%が高齢者である.高齢化に伴い身体面での問題が顕在化し,転倒事故が大きな問題となっている.当院では2002年から多職種で協働し,転倒リスク評価,環境調整,服薬調整,運動療法など多角的な転倒予防対策を実施している.運動療法では転倒予防に有効とされる,ストレッチ,筋トレ,バランス練習を織り交ぜた複合的な運動プログラムを理学療法士が考案し,週2回30分ずつ,精神科病棟で9年間継続している.また,高頻度転倒者には個別の運動療法も実施し,半年毎に体力測定を実施している.本研究の目的は,精神科入院患者に対する転倒予防を目的とした運動療法の効果を検証することである.【方法】 対象は2002~2011年までの間に当院の精神科病棟に入院し,運動療法参加初回と半年後の体力測定に参加した74名(M34,F40)である.体力測定は,身長,体重,BMI(Body Mass Index),握力,開眼片足立ち時間,長座位体前屈, TUG(Timed up and go test), 10m最大歩行速度を半年毎に計18回測定した.転倒調査では,アクシデントレポートを用いた前方視的調査と,看護記録を見直す後方視的調査を行い,2001~2010年までの9年間のデータを採用した.調査項目は転倒件数,年齢,疾患名,入院日数である.【倫理的配慮、説明と同意】 測定への参加は任意とし,発表に使用することに同意を得られた方のみ実施した.発表するに当たり,個人情報の漏洩に配慮することを条件に当院の倫理委員会の承認を得た.【結果】 74名のうち,初回体力測定後,運動療法を半年間継続し,半年後の体力測定に参加した方は56名(M26,F30)であった.56名の初回と半年後の測定結果をウィルコクソンの符号付順位和検定を用い,危険率5%水準で検定した結果,開眼片足立ち時間とTUGが有意に向上していた(p<0.05).56名の初回測定前半年間の転倒調査の結果では11名が23件の転倒を起こし,転倒発生率は19.6%であったが,初回測定後の半年間では転倒者数8名,転倒件数16件,転倒発生率は14.3%に減少していた.一方,運動療法には参加せず,体力測定のみ参加した18名(M8,F10)の初回と半年後の体力測定結果を比較すると全ての測定項目において有意な差は無かった.また,初回測定前の半年間では2名が4件の転倒を起こし,転倒発生率は11.1%であったが,測定後の半年間では5名が10件の転倒を起こし,転倒発生率は27.8%に上昇していた.また,運動療法を3年間継続し,全ての体力測定に参加した方は21名(M6,F15)であった.21名の3年間の体力測定結果をフリードマン検定を用い,危険率5%水準で検定した結果,体重,BMIは減少し,握力は向上しており有意な変化が見られた(p<0.05).開眼片足立ち,長座位体前屈,TUG,10m最大歩行速度においては有意な変化は無く,機能維持に止まっていた.また,21名の運動療法介入後3年間の転倒件数の推移をフリードマン検定を用いて検定した結果,有意な変化は無かった.【考察】 運動療法継続者では運動開始後の半年間で転倒者数,転倒件数が減少していた.これは,体力測定結果が裏付けているようにバランス能力の向上により転倒リスクが軽減した結果であると思われる.また,長期間運動療法を継続している方ではバランス能力や柔軟性は維持されつつ,体重は減少,筋力が向上し,転倒件数にも有意な変化は無かったことなどから,転倒リスクの上昇を抑制出来たと思われる.一方,運動療法に参加していない方では体力測定値に有意な変化はなく,半年間の間に転倒者数,転倒件数は増加していた.これらの結果から,転倒ハイリスク集団である精神科入院患者に転倒予防対策を実施する際,運動療法は外せない対策の一つであると考える.しかし,精神科病床における全国調査の結果では年間4人に1人は転倒しているにもかかわらず,予防対策として運動療法の実施率が低いことが明らかとなっている.このような状況を改善するため,今後も精神科における運動療法の必要性を訴え続ける必要がある.【理学療法学研究としての意義】 精神科での運動療法介入,同一対象者の体力,転倒件数を長期間追跡した研究は少ない.運動療法を継続することで長期間,体力の維持と転倒予防効果があることが示唆され,精神科領域への理学療法士介入の必要性,有効性を示した.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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