理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 口述
活力低下 (exhaustion) を有する高齢者における歩行の質的変化
堤本 広大島田 裕之牧迫 飛雄馬土井 剛彦吉田 大輔上村 一貴阿南 祐也大矢 敏久鈴木 隆雄
著者情報
キーワード: 転倒予防, exhaustion, 高齢者
会議録・要旨集 フリー

p. Ea1023

詳細
抄録
【はじめに、目的】 活力低下 (exhaustion) は、心理状態の一つで身体機能や認知機能に影響を与えるだけではなく、精神疾患への移行、心大血管の罹患率にも関連しており、死亡率を上昇させる一因となるとされている。活力低下を示す高齢者人口は増加の一途を辿っており、exhaustionが虚弱高齢者選定基準の一つとなっている。exhaustionと歩行速度低下や歩行耐久性低下との関係が数多く報告されているが、歩行の質的指標との関係性に関しては未だ十分な知見は得られていない。歩行における質の低下は転倒リスク上昇につながり、各機能の低下がみられやすいexhaustionを有する高齢者における歩行の質の低下は、より危険性の高い転倒因子となりうる。そのため、exhaustionを有する高齢者の歩行の質的指標の評価は重要であると考えられる。そこで本研究の目的は、exhaustionを有する高齢者と有さない高齢者の時空間的歩行指標を加速度データから検討することとした。【方法】 本研究は、地域在住高齢者60名を対象とし、Study of Osteoporotic Fractures indexの基準に則り、exhaustionを有する群 (EG) (n = 15、75.8歳、女性: 40.0%) とexhaustionを有さない群 (nonEG) (n = 45、73.9歳、女性: 46.7%) に対象者を群分けした。計測項目は、対象者属性、exhaustionとの関連がある身体機能 (歩行速度、6分間歩行テスト: 6MWT)、認知機能 (Mini Mental State Examination: MMSE、Trail Making Test Part AおよびB: TMT-A、TMT-B)、および生活空間指標 (Life Space Assessment: LSA)とした。歩行計測は、11m歩行路にて第3腰椎に加速度計を装着し歩行させ、条件を通常歩行 (ST) 条件、および歩行時に認知課題を同時に行わせる二重課題歩行 (DT) 条件の2条件とした。加速度データから歩行の円滑性を表すHarmonic ratio (HR) を算出した。統計解析は、EG群とnonEG群の群間比較を行うために、正規分布を示した変数は対応のないt検定、正規分布を示さない変数はWilcoxonの順位和検定、二区分変数はχ二乗検定を行った。HRに関しては、速度に依存する潜在性を有するため、歩行速度で調整した上で群間比較した。その後、exhaustionの有無を従属変数とし、2群間で有意な関係が認められた変数を説明変数とし、対象者特性を強制投入したロジスティック回帰分析を行った。なお、統計学的有意水準はすべて5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に本研究の主旨、目的を口頭と書面にて説明し、同意を得た。本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。本報告に関連し、開示すべきCOI関係にある企業はない。【結果】 EG群とnonEG群の群間比較において、対象者特性、歩行速度、6MWT、MMSE、TMT-A、TMT-Bに有意な差は認められなかった。2群間に差が認められたのはDT条件時のHR (EG vs nonEG; 2.12 ± 0.35 vs 2.49 ± 0.50)、およびLSA (EG vs nonEG; 71.1 ± 14.9 vs 84.6 ± 18.2) のみであった。exhaustionと有意な関係性が認められたDT条件時のHRを四分位でカテゴリー化した変数、およびLSAと対象者特性を説明変数として強制投入したロジスティック回帰分析を行った。結果、DT条件におけるHR (Odds比 = 0.49、95%信頼区間 = 0.24 - 0.92、p < .037) 、LSA (Odds比 = 0.95、95%信頼区間 = 0.90 - 0.99、p < .026) それぞれについてexhaustionとの独立した有意な関係性が認められた。【考察】 本研究では、EG群とnonEG群の間に、身体機能・認知機能では有意な差は認められず、歩行の質的指標HRと身体活動指標LSAにのみ差が認められた。歩行の円滑性は、より複雑な課題で日常生活環境に近い条件と考えられるDT条件にのみexhaustionと独立した関係性が認められた。より複雑な課題下における歩行は、心理的要因に強く影響を受けることが分かっている。exhaustionが鬱の構成要因である事をふまえると、本研究は先行研究の結果を支持する形となる。一方、本研究においてはexhaustionによる身体機能・認知機能には低下がみられず、他の研究と異なる点といえる。これは、exhaustionの調査方法や基準が研究間で異なるために、対象者の属性が異なっていたことが一因と考えられた。本研究は対象者が少なく横断的研究のため、因果関係を論ずるには至らない点が研究の限界である。今後、exhaustion選定基準を精査し、対象規模を広げ縦断的な検討により、exhaustionと各機能との関係性を詳細に検討する必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 地域在住高齢者がexhaustionを有する場合、歩行に何らかの変化があることは認識されていたが、加速度計を用いた計測によって客観的に歩行の変化を捉えられることが明らかとなった。exhaustionを有する高齢者に対する新たな歩行解析方法に対する知見を本研究は提示し、理学療法研究の発展に意義のあるものと考えられた。
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top