抄録
【はじめに、目的】 大腿骨近位部骨折は高齢者における代表的な疾患の一つであり、退院後の生活に大きく影響すると考えられる。当院においても、急性期病棟から回復期リハビリテーション病棟(以下回復期リハ病棟)への転入時に、円滑に退院計画を進める上で患者の予後予測を行い、リハビリテーションを行っていくことは重要なことである。しかし、大腿骨近位部骨折患者の機能予後において認知機能の低下など様々な要因により、運動機能面の改善が得られず、自宅復帰に難渋する患者も見られる。そこで今回、我々は回復期リハ病棟におけるFunctional Independence Measures(以下FIM)の改善率に着目し、FIM認知5項目(以下認知FIM)とFIM各項目について検討したのでここに報告する。【方法】 対象は、2010年3月から2011年8月まで、当院回復期リハ病棟に転入した46例の大腿骨近位部骨折患者であり、男性10例、女性36例とした。平均年齢は82.5±7.8歳であった。転入時と退院時のFIMの得点より改善率(転入時のFIMの得点を100%とする)を算出し検討した。また、転入時の認知FIMの合計21点以上を認知FIM高群(以下高群)、20点以下を認知FIM低群(以下低群)として群分けを行った。高群は28例、低群は18例であった。転帰先を自宅(以下自宅群)と自宅以外(以下非自宅群)に分け、FIM各項目における改善率と認知FIMとの関連性を検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 研究目的や方法、プライバシーへの配慮について、医師より本人もしくはご家族に説明、書面により同意を得られた者を対象とした。【結果】 転入時、合計FIMの平均は、高群で94.0±16.0点、低群は59.4±18.0点であった。退院時の合計FIMの平均は、高群で108.3±18.3点、低群は64.7±19.5点であった。また、認知FIMの改善率は、高群が104.2±0.11%、低群が104.2±0.14%であった。高群と低群で、有意差を認めた項目は、合計FIM、FIM運動13項目(以下運動FIM)、更衣下半身、歩行、階段、問題解決であった。運動FIMの改善率は、高群で124.6%、低群で111.5%、更衣下半身の改善率は、高群で159.4%、低群で121.2%、歩行の改善率は、高群で308.8%、低群で190.6%、階段の改善率は、高群で364.3%、低群で136.1%、問題解決の改善率は、高群で119.6%、低群で100%であった。また高群の自宅群は22例で78.6%、低群の自宅群は9例で50.0%であった。【考察】 本研究から、認知FIMの改善率は、両群とも大きな改善は見られなかった。そのため、運動FIMの改善が合計FIMに影響すると推察された。しかし、転入時の認知FIMが20点以下であれば、運動FIM項目の改善率が有意に低下し、退院時の合計FIMの低下につながる結果となった。これは、認知FIMが日常生活動作(以下ADL)の向上に影響を与えるとする、諸所の先行研究とも一致するところであった。転入時の認知FIMに低下が見られる患者に対しては、転入時の運動FIMの点数に応じ、早期から退院に向け、家族や介助者の有無、家屋状況などの自宅環境を把握しておく必要があると考える。そして患者のADLに応じた提案を行い、家族や介助者への説明や指導も含めたリハビリテーションプログラムを検討していく必要性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 回復期リハ病棟において、予後を見据え理学療法を行うことは重要であり、本研究は、予後予測を検討する一助となると考える。また、転入時の認知FIM20点という客観的指標が、退院計画を円滑に進めるための一つの目安となると考える。