理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
環境が移動動作に与える影響
─高齢者転倒予防に向けての手すりの有効性についての研究─
井上 健太郎山口 武彦川西 孝幸山下 美樹関本 英貴高井 逸史高橋 隆宜宮野 道雄
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キーワード: 高齢者, 環境, 転倒予防
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p. Ea1026

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抄録
【はじめに、目的】 わが国において高齢化が急速に進んでおり、後期高齢者の増加が著しく、その要介護者割合が高くなっている。介護が必要となる原因として転倒が挙げられ、これは全体の1割を占めている。身体機能の維持・向上には限界があり、環境に対するアプローチが重要な意味を持つと考える。少しでも介護が必要となる時期を遅らせることができるよう、環境が移動動作に与える影響について検討し、認知的側面から環境を捉えることにより転倒し難い環境のあり方についての見解を得ることを目的に本実験を実施することとした。今回は高齢になる程転倒率の上がる廊下に着目し、手すりの有効性についての検討を行った。【方法】 当院に通院治療あるいは通所リハビリテーションサービスを利用している高齢者(女性15名、平均年齢85.13歳)を対象とし、居室から廊下に出て歩くという状況を想定、2つの条件の異なる廊下環境[条件1:手すりを取り付けた廊下、条件2:手すりの無い開けた空間の廊下]を交互に3回、インターバル1分を挟み歩いてもらい、その時の歩行スピード・加速度変化・歩行の分析を行った。条件1において手すりはあるが使用しないこととした。歩行スピードは、廊下に出て方向転換し1m歩いたところからの5m歩行スピードを測定。加速度については、無線型3軸加速度計(バイセン株式会社LegLOG)を第3~4腰椎棘突起部に装着し測定を行った。得られたデータを軸ごとに加速度差分を取り加速度変化を抽出、その値を2乗し踵接地時の加速度変化を強調し抽出した(加速度差分の2乗値)。加速度差分2乗値を合計し動きの強度を算出(加速度差分2乗値合計)、条件2の加速度差分2乗値合計を基準に条件1における動きの強度変化を比較した(増減率)。また、高速フーリエ変換によるパワースペクトルから平均周波数を算出し歩行の特徴を捉えた(平均パワー周波数)。歩行分析は実験時に撮影したデジタルビデオ映像を使用、2次元・3次元動作解析システム(株式会社DKH.Frame-DIAS2)を用い歩行解析を行い、Microsoft Office Excel 2003を用い分析を行った。方向転換後1m歩いた時点からの3歩行周期の右肩峰の動きから内・外側への偏移量(左右動揺距離)と条件ごとの右肩峰の側方への動きの平均値(左右動揺平均値)を求め、右肩峰の左右への動きと左右動揺平均値をグラフ化し、条件間・対象者ごとに比較した。実験終了後に実験時の心理状況や日常における歩行状態、転倒歴についてのアンケートを実施。それぞれの結果を基に関連性について統計的処理を行なった。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には紙面および口頭にて研究の目的および方法、プライバシー等に関して十分に説明を行い署名にて同意を得た。【結果】 [アンケート結果]:条件1・2において、歩きやすさや安心感にほとんど差はなかった。[歩行スピード結果]:条件1・2間に有意差なし。環境からの歩行スピードへの影響はみられなかった。[加速度データ分析結果]:動きの強度の低い(加速度差分2乗値合計が小さい)者において、条件1では動きの強度が増加する傾向にあった。平均パワー周波数では、動きの強度の低い者において増加する傾向にあった。歩行スピードと加速度との関連性については、条件1において動きの強度が大きくなった者は中央よりの順位となっており、運動強度が小さくなった者は歩行スピードが速い者と遅い者に分かれる傾向がみられた。[歩行解析結果]:左右動揺距離では、身体動揺が安定している者と不安定な者、条件間に同様の波形を示す者と示さない者がおり、歩容のばらつきがみられた。左右動揺平均値では、条件1において手すりのある壁側への移動量が多かった。【考察】 移動時の身体動揺について条件間の左右動揺平均値に差がみられ、壁や手すりのある側への移動が大きくなる傾向がみられ、壁や手すりに頼る傾向あることが示唆された。加速度データにおいて動きの強度が低い者は、手すりがある環境下で運動強度と高周波成分が共に増加した者と共に低下した者がみられた。これは手すりがあることで安心感を得、歩行がダイナミックになったこと、逆に歩行が安定し身体動揺が減少したことを示していると考える。アンケート調査との比較からは、本人が自覚していない状況においても環境からの影響を受けている可能性があることが示唆された。使わなくても手すりがあることが歩行動作を安定させ、転倒し難い歩行状態を作り出せる可能性があることが判った。【理学療法学研究としての意義】 環境が身体に与える影響を明らかにすることにより、環境から転倒を予防するためのヒントを得ることができると考える。また、環境に対し、より意味をもって有効的にアプローチができ、安全な生活環境を整えることに繋がるのではないかと考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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