理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
様々な環境条件下での移乗動作自立に影響を与える因子
石本 麻友子鈴川 芽久美波戸 真之介林 悠太島田 裕之
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キーワード: 移乗動作, 環境, 自立
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p. Ea1027

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抄録
【はじめに、目的】 在宅の要介護高齢者に対する理学療法として、通所介護及び通所リハビリテーションではADL向上を目標に筋力強化やバランストレーニングなどの機能訓練が行われている。ADLの中で移乗動作に着目すると、移乗動作能力と下肢筋力の関係などは広く研究されているが、機能的自立度評価法(FIM)で評価されるようなベッド・椅子・車椅子移乗、トイレ移乗、浴槽移乗の環境ごとで移乗動作能力獲得に必要な要因について研究した例は少ない。そこで本研究はデイサービスでの機能訓練を行う上で、移乗動作自立を促すために各環境下で移乗動作に必要とされる要因を検討する。【方法】 対象は、当社のデイサービスセンターを利用し、2010年8月1日から2011年7月31日までの1年間で当社既定の体力測定を実施した2059名を対象(平均年齢81.8±6.4歳、男性616名、女性1443名)とした。ただし認知機能が体力測定結果に与える影響を考慮し、認知機能検査(MSQ)で誤答数9以上の者を除外した。移乗動作の評価はFIMの車椅子~ベッド間移乗、トイレ移乗、浴槽移乗の3項目を使用し、各項目で7点及び6点を自立群、5点以下を非自立群として2群に分けた。各項目における自立群の人数は、車椅子~ベッド間移乗が1868名(90.7%)、トイレ移乗が1919名(93.2%)、浴槽移乗が1740名(84.5%)であった。体力測定は筋力検査として握力と椅子立ち座りテスト(CST)、バランス検査として開眼片足立ちとタンデム歩行、瞬発力検査として座位ステッピング、歩行検査として6m最大歩行速度とTimed up and Go test(TUG)を実施した。統計学的解析は、移乗動作3項目に対し、年齢・介護度と体力測定7項目が影響する程度を検討するため、移乗動作をダミー変数にて2値化(自立群を0、非自立群を1)して従属変数とし、それ以外を独立変数とした強制投入法による多重ロジスティック回帰分析を使用した。なお、検有意水準はBonferroniの補正を加味しp<0.017に設定した。【倫理的配慮、説明と同意】 体力測定実施前に書面と口頭による説明を行った上で対象者本人の同意を得た。また、本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。【結果】 多重ロジスティック回帰分析の結果、車椅子~ベッド間移乗では、介護度と6m最大歩行速度に有意な関連が認められた。それぞれのオッズ比は介護度が1.76(95%信頼区間 1.54-2.01)、6m最大歩行速度が0.40(95%信頼区間 0.21-0.76)であった。トイレ移乗では介護度、6m最大歩行速度、TUGに有意な関連が認められた、それぞれのオッズ比は介護度が1.73(95%信頼区間 1.48-2.01)、6m最大歩行速度が0.37(95%信頼区間 0.18-0.78)、TUGが1.05(95%信頼区間 1.01-1.09)であった。浴槽移乗では介護度・握力・6m最大歩行速度・TUG・座位ステッピングに有意な関連が認められた。それぞれのオッズ比は性別が0.65(95%信頼区間 0.46-0.92)、介護度が1.53(95%信頼区間 1.37-1.70)、握力が0.97(95%信頼区間 0.94-0.99)、6m最大歩行速度が0.51(95%信頼区間 0.30-0.86)、TUGが1.06(95%信頼区間 1.03-1.10)であった。【考察】 本研究はADLの移乗動作に着目し、移乗動作自立に対してどのような要因が影響するかを検討した。結果より、車椅子~ベッド間移乗動作では介護度と6m最大歩行速度が影響の大きい因子であった。また、トイレ移乗では介護度と6m最大歩行速度に加えTUGも影響の大きい因子であった。筋力検査やバランス検査の項目に有意な関連性が得られなかった。このことから、移乗動作の自立は単に筋力を増強する、バランス能力を改善するというだけで得られるものではないという可能性が示唆された。移乗動作の自立には筋力やバランス能力など、複数の因子が関与した総合的な能力が必要であり、同じく総合的な能力が必要となる歩行と密接な関係があると考えられる。浴槽への移乗動作では他に握力・座位ステッピングの2つが有意に関連していた。浴槽への移乗動作が他2つの移乗動作と大きく異なる点として、足元の状態が滑りやすい点、「またぎ」動作が必要な点が挙げられる。このような転倒しやすい環境条件下では自立に向けて十分な諸運動機能が必要となるため、握力や座位ステッピングとの関連性が認められたと考えられる。本研究では移乗動作に対し身体機能との関係しかみていないが、今後は対象者の体格(身長・体重・BMI)や疾患などの要因もどの程度影響してくるかを検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 単に移乗動作と言っても、獲得するには単一の要因だけでなく総合的な身体能力が求められる。また、環境条件によって必要な能力が変化する可能性が示唆されたため、対象者が動作を行う際の環境を考慮した機能訓練の提供の必要性が再確認された。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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