理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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頭側挙上位の姿勢管理が自律神経機能や嚥下機能に与える影響
宮内 直子前重 伯壮前川 匡谷光 康浩木下 慶一杉元 雅晴
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キーワード: 自律神経, 頭側挙上, 嚥下
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p. Eb0584

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抄録
【はじめに、目的】 姿勢の違いが自律神経機能や嚥下機能に影響を及ぼすことは報告されているが、ずれた姿勢の管理が自律神経機能や嚥下機能に及ぼす影響を検討した報告は見かけない。今回、臥床位置や背抜きによる姿勢管理が、自律神経機能や嚥下機能に及ぼす影響を検討したので報告する。【方法】 対象は健常男性8名(年齢 27.6±3.8歳、身長 170.2±4.2cm、体重 66.5±6.0kg、BMI 22.4±1.6)。ベッドはメーティス(パラマウント)、マットレスはBENDY M(フランスベッド)を使用した。ずれた姿勢の管理方法は、管理を行っている姿勢として、森らの報告を参考にずれが少ないとされる、被験者の大転子がベッドの屈曲基部に一致する位置に臥床し、ギャッチアップ後背抜きを行った場合(以下、管理あり条件)と、姿勢管理を行っていない場合として、被験者の大転子が屈曲基部より脚側20cm地点に一致する位置に臥床し背抜きを行わなかった場合(以下、管理なし条件)とした。被験者の左示指をアルコール消毒した後、加速度脈波計SA-3000P(Medicore社製)のPPGプローブを装着した。頭側挙上角度のデジタル表示部を参照に0°から75°まで頭側挙上した。その後被験者に姿勢を保持させ、外部刺激を控えた環境で10分後、20分後、30分後の加速度脈波(APG)を3分間測定し、LF/HF、HF、TP、SDNN、RMSSDを算定した。APG測定後に頚部屈曲角度を測定し、RSST(反復唾液嚥下テスト)を実施した。RSST後に、嚥下のしやすさをVASにて「まったく飲みにくくない」を0、「きわめて飲みにくい」を10として評価した。なお各条件の測定は別の日に行った。実験環境は気温24.0±0.5℃、湿度54.9±11.0%であった。解析方法は、自律神経機能の指標に関しては10分後、20分後、30分後、および測定時間内での最大値、最小値、平均値を算出し、ウィルコクソン符号検定順位検定を実施した。頚部屈曲角度やRSST、VASにおいてもウィルコクソン符号検定順位検定を実施した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には本研究の目的と方法を書面と口頭にて説明し、同意を得た。【結果】 管理あり条件の方が管理なし条件より有意に高かったのはSDNNの最小値、RMSSDの最小値、RMSSDの平均値であった。管理あり条件の方が管理なし条件より高い傾向にあったのは、HFの最大値(p=0.09)、TPの最大値(p=0.07)、RMSSDの20分後(p=0.09)、30分後(p=0.09)、RMSSDの最大値(p=0.07)であった。管理あり条件の方が管理なし条件より低い傾向があったのはLF/HFの最大値(p=0.09)であった。その他の値においては、有意差や傾向(p<0.10)は認められなかった。【考察】 今回の検討により、頭側挙上時の姿勢管理の違いが自律神経機能に影響を及ぼしていることが認められた。管理あり条件の方が、自律神経機能全般の活動を反映するSDNNやTP、副交感神経活動を反映するRMSSDやHFが高値を示し、高値ほど交感神経が有意であることを示すLF/HFが低値を示したことから、管理あり条件の方が自律神経機能全般の活動は促進している中で、交感神経機能は低下し、副交感神経機能が向上する傾向があると推察される。自律神経機能評価は一般にリラクセーションの評価に用いられており、これらの結果は、姿勢管理を行っている方がリラックスできていることを示唆していると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 姿勢管理は臨床場面において、褥瘡予防や治療および関節拘縮の予防を目的に行われていることが多い。しかし、姿勢管理が必要とされる患者は、意思を伝えにくい状態であることが多く、医療的な処置としてだけではなく、患者がリラックスできるような姿勢管理の方法を提供することも理学療法士には求められていると考える。今回の結果より、姿勢管理の有無が自律神経機能に影響を及ぼし、姿勢管理を行った方が、リラックスした状態を患者に提供できることが推察される。さらに、食事、および経管栄養の注入姿勢である頭側挙上位において、副交感神経機能に影響を与える肢位を明らかにしたことは、患者の消化、吸収の管理上意義深いことと考える。しかし、自律神経機能評価は環境の影響や個人差が大きく、先行研究でも結果が相違する報告がある。今後は研究対象者を検討し、姿勢管理の条件の違いによる自律神経機能の変化や嚥下機能への影響を分析していく必要があると考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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