理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
地域リハビリテーション推進阻害要因
─医療保健福祉関係実務者における地域リハビリテーションの定義と対象の認知度─
盛田 寛明安原 教子小川 良子畑中 晴美
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p. Eb0586

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抄録
【はじめに,目的】 地域リハビリテーション(以下地域リハ)の推進阻害要因の一つとして,地域高齢者・障害者を支援する医療保健福祉関係実務者(以下関係実務者)間の意識のずれがある。我々は,1998年に,関係実務者間において,地域リハの認識の仕方に大きなずれがあることを報告した。さらに,介護保険施行後に実施した大規模調査においても,その共通認識の欠如が改善していないことを指摘した。本研究では,関係実務者の地域リハに対する捉え方をより具体的に把握すべく,地域リハの本来あるべき内容を記した啓発パンフレット(以下地域リハパンフレット)を作成・配布し,地域リハの定義と対象に関する認識の仕方について明らかにすることを目的とする。【方法】 対象地域は,青森県内の地域リハ資源が充実している1市部(以下市部)および同資源が不足している1町1村(以下郡部)とした。分析対象者は,市部は23職種280名,郡部は12職種160名であった。調査は訪問配票・郵送回収法にて実施した。各対象者が,調査時に各自に配布した地域リハパンフレットを読んだ上,自記式質問紙に回答した。調査項目は,地域リハの定義の既知・未知,および地域リハの対象の捉え方に関する内容であった。地域リハパンフレットに記載した項目は,定義については日本リハビリテーション病院協会地域リハビリテーション・システム検討委員会が整理した内容,対象については伊藤が主唱する医療機関・施設・在宅の関連性を明確にした内容であった。分析方法は,カテゴリカル主成分分析でカテゴリーデータ間の比較・対応関係を解析した。また,テキストデータ型解析ソフトウエアにて,自由回答について構成要素変数をカテゴリー化・生成しその頻度を出力した。【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は,青森県立保健大学研究倫理委員会の承認を得た。同倫理委員会の規程に基づき,調査対象となる施設・対象者に対して,研究の趣旨,方法,対象者の募集・選択における任意性の確保,個人情報の保護等について文書・口頭で十分な説明を行った上で調査を実施した。【結果】 回収率は,市部63.0%,郡部81.0%であった。定義の既知・未知(2件法)についてカテゴリカル主成分分析にてカテゴリー数量化を布置した結果,市部,郡部ともほとんどの職種で「知らなかった」と対応した。「知っていた」の選択率50%以上を示した職種は,市部で医療機関の介護員・臨床心理士,郡部で保健師のみであった。地域リハの対象について地域リハパンフレットを読む前後での捉え方の相違(3件法)は,カテゴリカル主成分分析にてほとんどの職種で「違いはない」と対応した。「一部違いがある」「全く異なる」を併せた選択率は,50%以上が市部で3職種,10~30%が市部で8職種,郡部で4職種であった。対象の捉え方の相違内容(自由回答)については,構成要素数構成比の高い項目として,市部・郡部とも,医療機関・施設・在宅における対象の位置づけに関する認識のずれ,および地域リハについてよく分からない等が抽出された。【考察】 結果から,地域リハ資源の充実度の高低に関わらず,関係実務者において,本邦における地域リハの一般的な定義を知らなかった者の割合が高いことが明らかとなった。地域リハの対象については,認識を同じにする関係実務者の割合が高かったものの,認識を異にする者の割合が低いとはいえず,異なる捉え方をしている者の割合が多い職種も存在する実態が示された。また,自由回答から,地域リハの内容が正しく理解されていないことが分かった。これらのことから,地域リハ活動を円滑に推進するために,関係実務者に対して地域リハの定義および対象を普及する啓発活動を推進する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 地域の障害者・高齢者を適切かつ即時的に支援する地域リハ活動を推進するためには,保健・医療・福祉関係実務者が連携しチームとしてアプローチすることが不可欠である。この連携促進には,関係実務者間の共通認識が必要となる。本研究では,この地域リハの活動内容や考え方の基準をパンフレットで示したうえで,定義の認知度の欠如や対象に関する捉え方の相違などの地域リハ推進阻害要因を具体的に把握できた。支援活動においては,「地域リハ」の用語が,対象者への直接的援助活動,リハビリテーション・ケアの組織化活動,一般の人々への働きかけなどにおいて汎用される。したがって,これらの阻害要因を是正する啓発活動等を実践することにより,関係実務者が地域リハの内容をより正確に把握することにつながり,地域リハ活動の効果的な実施に寄与する可能性がある。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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