抄録
【はじめに、目的】 運動の習慣化は,身体機能を維持・向上に重要である.近年では,運動を継続させることが生活習慣病の予防になる事が分かってきており,そのためにはオペラント条件が有効である.当訪問看護ステーションにおいて,一人の利用者に対し訪問出来る頻度は週に1,2回である.その中で運動を習慣化させることは,身体機能を維持・向上させるために重要であると考える.そこで今回オペラント条件に着目し,在宅において運動の習慣が身体機能に影響を及ぼすかを検討した.【方法】 訪問看護ステーションの利用者9名に実施した.利用者は男性3名,女性6名であった(年齢72.1±10.2歳).疾患は,脳血管障害4名,整形外科的疾患4名,代謝性疾患1名であった.利用者9名は無作為に,オペラント群5名(運動メニューと日付の入った紙を渡し,実施した日付にシールを1枚貼る)と通常群4名(運動メニューのみを渡す)の2群に分けた.実施期間は2ヶ月間とし,利用者にはできるだけ毎日自主トレーニングを実施するよう伝えた.運動メニューは「いきいきヘルスいっぱつ体操」を用いた.評価項目はFIM,MMT(大腿四頭筋),Functional balance scale(FBS),基本的チェックリストとした.評価は初期評価と最終評価の計2回,同一の担当理学療法士が行った.運動メニューは以下の5項目である. 1,肩の痛み予防・改善の体操 2,肩と腕の筋力を強くする運動 3,腰痛予防・改善の体操 4,膝痛予防・改善の体操 5,転倒予防体操.これらは項目ごとに3~4種類の運動メニューがあり,1日1項目以上,週に3日以上実施出来れば継続とみなした.オペラント群と通常群の継続人数の違いを調査し,初期評価と最終評価の比較には重複測定-分散分析を用いた.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 訪問看護ステーションを利用する9名に調査の説明をし,理解してもらった上で同意を得た.【結果】 自主トレーニングが継続できた人数は,オペラント群3/5人,通常群1/4人であった.基本的チェックリストは,オペラント群と通常群において有意差が認められた(P<0.05).一方,大腿四頭筋MMT,FIM,FBSには有意差が認められなかった.【考察】 今回の結果から,オペラント条件が基本的チェックリストに影響を及ぼしている事が分かった.オペラント条件の効果により運動を実施するという意識が生じた結果,行動に変化をもたらしたため,基本的チェックリストに影響を及ぼしたと考えられる.その他の項目には差が見られなかったが,これはほとんどが維持期の利用者のため,身体機能の大きな変化が認められなかったためではないかと考えられる.自主トレーニングの継続に関しては,継続できた利用者はオペラント条件を活用した方が多い結果となった.オペラント条件に基づき運動メニューを実施した際にシールを貼っていくというオペラントから,視覚的フィードバックが強化因子になったと考えられる.またシールを貼るという行動により,意味記憶にも作用したのではないかと推測される.今回の結果より,オペラント条件を活用する事が,運動メニューの継続に影響を及ぼしている可能性がある事が示唆された.チェック表は家族などの目に付きやすく,正のフィードバックが得られやすいと考える.そのため他者に認められることで運動継続に対してのモチベーション向上につながるのではないかと考えられる.今回は一律の運動メニューにて行ったが,今後は各々の利用者に合わせたメニューを考案し個別性に対応していくことが課題である.【理学療法学研究としての意義】 在宅では病院や施設と比べ他者が注意を促す機会が少ない.そのため,運動を継続していくことが困難な場合が多い.オペラント条件を運動の習慣化の一要因として活用することは意義があると考える.