抄録
【はじめに、目的】 近年、住み慣れた地域で自分なりの生活を送るということが尊重されるようになってきた。そのため、在宅生活を支えるという点で、在宅高齢者の訪問リハビリテーション(以下、訪リハ)に対する需要は高まってきている。しかし、在宅高齢者の問題として、生活空間の狭小化とそれに伴う精神機能の低下、中でもうつ傾向の増加があげられる。先行研究では、生活空間が狭小化しているほど、生活機能が減弱していると考えられており(渡辺、2005)、生活空間と生活機能に伴う精神機能との関連性が重要視されている(二瓶、2010)。しかし、訪リハ利用者の精神機能、特に「うつ」との関連性についての報告は少ないのが現状である。そこで、今回訪リハ利用者における生活空間と「うつ」との関連性を検証したので報告する。【方法】 対象は市街地にあるA病院において介護保険下での訪リハ利用者18名(男性9名、女性9名、年齢77±7.7歳)とした。今回は聞き取りにて調査を行ったことから、コミュニケーションがとれる対象者とし、対象者の基準を、FIMのコミュニケーション項目6点以上で、認知症の既往のある者を除くものとした。調査方法は、面接式の聞き取り調査とし、調査項目は生活空間の指標であるLife-Space Assessment(以下、LSA)と、うつ傾向の指標の一つである老年期うつ尺度短縮版(以下、GDS15)とした。LSAとは、Bakerらにより開発され、身体活動を生活空間といった概念で捉える評価スケールで、配点は0~120点であり、LSA得点が高値なほど生活空間が広く、低値なほど生活空間が狭いとされている。また、GDS15とは、Yesavage らにより開発された高齢者用の抑うつスコアであり,簡便にうつ傾向を点数化する尺度である。分析方法は、先の堀田らの報告にならいLSA得点の中央値を境に、生活空間が広い群(以下、LSA広群)と、生活空間が狭い群(以下、LSA狭群)の2群に分け、さらにLSA広群とLSA狭群の各々でGDS15の点数化を行った。その上で、LSA広群のGDS15の得点とLSA狭群のGDS15の得点とを比較し検討した。統計処理は、LSA広群とLSA狭群の各群のGDS15の得点を、Mann-WhitneyのU検定を用い、各群のLSA得点とGDS15得点とをSpearmanの相関係数を求め処理を行った。なお、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に沿い対象者へ本調査の趣旨を十分に説明し、書面にて同意を得た上で、調査を行った。【結果】 対象者のLSAの中央値は、32点であった。LSA狭群のGDS15の得点は6.89±2.8点、LSA広群でのGDS15の得点は3.67±2.8点と、LSA狭群のGDS15の得点がLSA広群のGDS15の得点に対し有意に高値を示した(p<0.05)。さらに、LSA広群とそのGDS15得点においては有意な相関は認めなかったが、LSA狭群とそのGDS15得点との間で、有意な負の相関を示した(r=-0.58、p<0.05)。【考察】 今回の対象者のLSAの中央値は32点であった。これは、理学療法士協会から報告されている一般的な平均値36点と類似した得点となり、今回の対象者の生活空間は全体的に狭小化の傾向であると示された。その中でLSA広群と狭群の各群におけるGDS15の得点の比較では、LSA狭群のGDS得点がLSA広群でのGDS得点よりも有意に高値を示し、さらにLSA狭群とそのGDS15得点との間で有意な負の相関を示したことから、生活空間が狭小化されている者は、うつ傾向を有することが示される結果となった。二瓶の報告では、地域高齢者において、身体機能、精神機能等の個人因子や、環境因子が複雑に絡まり生活空間の狭小化が生じるとされている。このことを踏まえ今回の結果と比較しても、身体機能に何らかの問題を抱えている訪リハ利用者は、生活空間の狭小化が生じやすいと考えられた。また生活空間の狭小化が顕著な者においては、うつ状態を招きやすく、閉じこもりがちとなってしまうことが推測され、さらに生活空間が狭小化してしまうという負の連鎖が生じる可能性があることから今後の検討を要すると思われた。本調査では、生活空間の狭小化に対する種々の要因を検討するには至らなかったが、生活空間の狭小化とうつ傾向との間に関連性があることが認められた。【理学療法学研究としての意義】 今回の結果から、生活空間が狭小している訪リハ利用者に対し、生活空間を拡大していくには、対象者がうつ傾向を有することを念頭に置き、精神機能面を考慮し対応していくことが必要不可欠であると考えられる。