理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
簡易型測定装置による転倒衝撃力測定
─床材とヒッププロテクターの比較検討─
李 寧對馬 新吾對馬 均
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p. Eb0613

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抄録
【はじめに、目的】 これまで高齢者の転倒骨折予防に関連して、ヒッププロテクター(以下HP)の衝撃吸収効果に関する研究が多く行なわれてきた。しかし、HPと床材の組み合わせによる衝撃吸収効果について焦点を当てた研究は少ない。本研究は、HPと床の衝撃吸収効果を、この二つの要因の条件を変えた実験の帰結から実証し、転倒による大腿骨頚部骨折を予防する上で最適なHPと床の条件を明らかにすることを目的として実施された。【方法】 衝撃力の測定装置として、先行研究を参考に、直径28mmの鉄パイプで簡便な転倒シミュレータを自作した。この装置は70cmのアームの先端の打撃部に5kgの重錘を取り付け、30度の角度から弧を描いて床面まで落下させる構造で、文献的に筋が弛緩した状態で70cmの高さから落下した際にかかるとされている5600Nに近似した衝撃力を打撃部で再現できるように設定された。なお、打撃部は木製ブロックを削りだして大腿側面のレリーフを模した形状とし、表面を厚さ10mmのソフトスポンジでカバーした。この装置を用いて以下に示すHPと床材の組み合わせ条件で、落下実験を各5回ずつ行い、打撃部に貼り付けた富士フィルム社製プレスケールシート(MS,LW, LLW)と同解析システムFPD-9210により衝撃力を測定した。各条件での測定結果は分散分析により比較検討された。HPの条件としては“HPなしの状態”、“市販の硬性HPを装着した状態”、“市販の軟性HPを装着した状態”の3条件、床材の条件としては“Pタイル張りコンクリート”、“木製フローリング”、“畳”の3条件で、これらの組合せにより9つの条件を設定した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヒトを対象としたデザインではないため、「倫理的配慮」や「説明と同意」は特に必要としなかった。【結果】 1)HPなし・Pタイル張りコンクリートという緩衝効果のない条件での打撃面積は平均10.8cm2と狭く、衝撃力は平均6328Nを示した。2)Pタイル張りコンクリートに硬性HPを装着した状態での打撃面積は47.3cm2と広く、衝撃力は4249Nであった。3)衝撃吸収効果を床材条件で比較すると、畳>木製フローリング>Pタイル張りコンクリートの順に大きく、HP条件の比較では硬性HPよりも軟性HPの衝撃吸収効果の方が勝っていた。4)HPと床材の組み合わせによる衝撃吸収効果については、硬性HP・Pタイルコンクリート<硬性HP・木製フローリング<軟性HP・Pタイルコンクリート<硬性HP・畳<軟性HP・木製フローリング<軟性HP・畳の順に大きかった。5)軟性HP・畳という条件での打撃面積は48.9cm2と最も広く、衝撃力は平均2606Nで、衝撃吸収効果の点で最も優れていた。【考察】 Robinovitchらの先行研究では側方への転倒時に大腿骨頚部にかかる衝撃力が頚部骨折の主要な原因であることが指摘されており、こうした文脈から、ヒッププロテクターの装着と衝撃吸収性の高い床を整備することで、転倒時の衝撃力と骨折リスクを減少させることが重要とされてきた。今回の結果から、軟性HP・畳という条件が衝撃吸収効果の点で最も優れており、衝撃力は高齢者の大腿骨頚部骨折を引き起こす際の平均的衝撃力とされている3200 Nを下回ることが実証された。また、Pタイル張りコンクリートであってもHPをつけた状態では衝撃力を最大で40.5%吸収することができることが確認された。以上のことから、転倒骨折のリスクの高い虚弱高齢者の居住環境としては畳の部屋が最適であり、その上でヒッププロテクターを装着していれば、万一転倒した場合の骨折リスクを大幅に軽減できるものと思われる。【理学療法学研究としての意義】 高齢者の転倒は大腿骨頚部骨折を引き起こし、長期にわたる疼痛や障害の残存、および高い死亡率をひき起こすことから、高齢者にとって大きな脅威となっている。本研究により大腿骨頚部骨折を予防する上で最適なヒッププロテクターと床の条件が提示されたことは、転倒時の衝撃力と骨折リスクの軽減につながるという点で意義深いものである。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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