理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
高齢者の転倒予防自己効力感と日常生活活動能力
―前向き研究より―
井上 由里松田 一浩佐古 俊之國廣 澄仁中越 竜馬坂本 一也前谷 一旗武内 芳広後藤 誠村上 雅之
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Eb0612

詳細
抄録
【はじめに、目的】 通所介護施設を利用する高齢者の転倒率は約25%で、一般高齢者の約20%と比較すると高い傾向にあり、転倒予防対策の必要性は高まる一方である。高齢者の最も高い転倒危険因子は、下肢の筋力低下とされ、理学療法士が果たす役割は大きい。しかし、高齢者の転倒には多要因が関与していることから心理的要因の一つである転倒予防自己効力感が注目されている。そして横断的研究で転倒および転倒予防自己効力感と日常生活動作能力の関連性が多く報告されているが縦断的報告は少ない。本研究は1年間の前向き研究から、転倒経験は本当に転倒予防自己効力感を低下させるのか、転倒予防自己効力感が低い高齢者は、1年後日常生活動作(Activity of Daily Life:ADL)能力を低下させるのかを明らかにすることを目的とした。【方法】 兵庫県下7箇所の通所リハビリテーション利用者で認知症を認めない、独歩または、補助具を使用して自立歩行可能な142名(男44名、女98名)を対象とした。そのうち86名(年齢81.7±7.3歳、男24名、女62名)の追跡調査が実施でき、分析対象となった。初回調査では、転倒予防自己効力感をModified Fall-Efficacy Scale(MFES)、手段的日常活動 (Instrumental ADL: IADL)能力を老研式活動能力指標で聴取した。追跡調査では、初回調査から1年間の転倒経験の有無、MFESと老研式活動能力指標を聴取した。初回調査でMFESが低い群(低MFES群)と高い群(高MFES群)の間で1年間の老研式指標活動能力指標の変化(IADL変化)を、また初回調査から追跡調査中の転倒経験の有無(転倒群と非転倒群)によって1年間のMFESの変化(MFES変化)をMann-Whitney検定で比較した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,本研究の目的,結果の公表、参加しなかった場合でも何の不利益も生じないこと、個人情報の保護について説明し,同意書にて同意を得た。【結果】 対象者は追跡調査までの1年間に27名(31%)が転倒を経験していた。IADL変化は低MFES群(0.05±2.62点)と高MFES群(0.19±2.00点)の間で、有意な差(p=0.780)を認めなかった。またMFES変化も非転倒群(-3.34±3.49点)と、転倒群(-5.15±5.46点)の間に有意な差を認めなかった(p=0.405)。【考察】 本研究では初回調査時に低い転倒予防自己効力感を有する高齢者は1年後IADL能力を低下させる傾向にあるとは言えなかった。Mendesらは1,103名の地域在住高齢者を対象とした研究で、初回調査時に低いMFESを有した群のみが18カ月後、有意にADL能力を低下させていたと報告し、本研究の結果とは異なる。Mendesらが対象とした地域在住高齢者は本研究の通所リハビリテーション利用者よりも高い機能レベルを有していたと推測される。またMendesらはKatzのADL評価表を用いて「している基本的なADL」を、本研究では老研式活動能力指標を用いて「できるIADL」を評価した。そして転倒予防自己効力感の評価にMendesらは10項目の基本的ADLを対象としたFall-Efficacy Scale(FES) を、本研究では高い活動レベルが追加されたMFESを採用した。このように対象者の機能レベルや評価ツールの差が、また高齢者のADL能力には内的因子だけでなく、介護者や生活環境といった外的因子が関与することが、この相違した結果に影響する要因となっていることが推測できる。転倒経験が転倒予防自己効力感を低下させるともいえない結果となった。これは「一度転んだので、注意をするようになったから転ばない自信がある。」と答える対象者もいたことから、複雑な高齢者の心理的因子を評価する難しさがうかがえた。同様にJørstadらは転倒に関与する心理的要因を評価するMFESやFESなどの6種類の評価表をレビューした結果、このような評価表には信頼性は認められるが、エビデンスが乏しく、対象者の能力レベルなどを考慮すると1種類に限定し、使用することは難しいとしている。本研究においても予防自己効力感の評価表の選択に対象者のレベルなどの配慮するべき検討の必要性が示唆された。本研究の限界として、対象者数が少ないこと、初回調査時の対象者のうち56名(39%)の追跡調査が行えなかったこと、初回調査と追跡調査でIADL能力やMFESがほとんど変化していなかったことは1年間の追跡期間では十分とは言えなかったことがあげられる。【理学療法学研究としての意義】 最近、転倒予防自己効力感の向上を目的とした転倒予防介入とその効果に関連した報告、あるいは介入の結果、転倒予防自己効力感や歩行、バランス能力が改善したと報告されているが、ADL能力を改善したとの報告はまだ見つからなかった。心理的要因に配慮した転倒リスクの評価や介入効果判定は重要である反面、単一の転倒予防自己効力感評価スケール使用することに対する問題提起とADL能力をアウトカムとできる転倒予防対策の検討の必要性を提示した意義のある研究であると考える。
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top