抄録
【目的】 ロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)は、生体電気信号及び足底の荷重分布、関節の角度情報を基に、股・膝関節のアクチュエータを駆動してトルクをアシストする装着型の動作支援機器であり、CYBERDYNE株式会社により開発された。我々は多施設間で運動機能障害者に対し、障害の種別・程度に応じたHALの適応の有無及び調整方法の確立を目的に標準運用技術の開発(HALプロジェクト)を行っている。今回はプロジェクトの第1期にHAL装着を試みた症例に対し、HALの持つ歩行能力の改善の可能性を明らかにすることを目的に、後方視的な検討を行ったので報告する。なお本研究は財団法人茨城県科学技術振興財団による生活支援ロボット研究開発推進基金により実施されている研究の一部である。【方法】 分析対象はHALプロジェクトに参加協力の得られた53名のうちHAL装着にて歩行が可能であった者45名(男性26名/女性19名・平均年齢57.1±17.3歳・脳血管障害26名/脊髄疾患17名/その他2名)分のデータとした。HAL装着後に各施設(4施設)で記載された総括記録を手掛かりにプロジェクトに関わるPT5名で各々適応(HALの効果が期待できる)、非適応(HALの効果は期待できない)を判定(一次判定)した後、全員の評価結果を各々に差し戻し再判定(二次判定)を行い評価を収斂した。適応群・非適応群間でHAL装着前及びHAL装着時の歩行速度、歩行率の比較(二元配置の分散分析)、対象者より調査した期待通り度(5段階順序尺度)についての比較(Mann-Whitney検定)を行なった。また歩行について適応群の記録よりどのような内容の記載があったか内容分析の手法を用い分析した。内容分析は以下の手順で行なった。(手順1)歩行について記載された項目を全て抽出し、これを記録単位とした。(手順2)同じ内容を示す項目を集め、数個のカテゴリに集約した。以上のカテゴリ化についてはPT2名(A及びB)が協議しながら行った。またカテゴリ化の信頼性は別のPT2名(C及びD)がカテゴリ化したものとA及びBが行ったカテゴリ化との一致率を重み付けκ係数により検討した。解析はSPSS(ver.15)を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は茨城県立医療大学倫理委員会の承認を得、対象者は公募とし応募者に対し研究の説明の後に書面にて同意を得た後に実施した。【結果】 PT5名によるHALの適応判定結果は2回の検討にて45名分(適応群23名・非適応群22名)が完全一致した。年齢は適応群が56.9±17.5歳、非適応群が57.4±17.6歳と有意差はなかった。歩行速度は適応・非適応、HAL装着前・装着時の交互作用は認められず、HAL装着前(39.9±20.6m/min)と装着時(27.8±15.7m/min)のみ有意差が認められた。また歩行率についてもHAL装着前(87.2±31.6steps/min)と装着時(67.8±28.4steps/min)のみ認められた。期待通り度については適応群が有意に高かった。歩行については35記録単位が抽出された。これらの記録単位からは5つのカテゴリが形成された。カテゴリへ分類した後の記録単位数の内訳は、「歩容の改善」(記録単位数12)、「支持性の改善」(同11)、「緊張の改善」(同7)、「歩行速度の改善」(同3)、「階段昇降能力の改善」(同2)であった。またカテゴリ化の信頼性についてはA及びBとC・Dのカテゴリ化の重み付けκ係数はCが0.67、Dが0.72と十分な一致率を認めた。【考察】 HAL装着による歩行への効果は適応・非適応群ともに有意差は認められなかったが、HAL装着によりともに歩行速度、歩行率がHAL装着前と比べて有意に低下することが明らかになった。しかし、装着者自身の期待通り度は適応群の方が有意に高く何らかの効果が装着者の満足につながったものと推測される。評価者のコメントからは主に歩容の改善といった記載が多くみられ、異常歩行パターンで歩行していた装着者がHAL装着により正常歩行パターンに近づいたことが関与しているものと思われる。今回は初回のHAL装着時の記録を基にした分析であり、HALによる歩行パターンの変化から、歩行速度や歩行率は低下したものと推測されるが、継続的に装着し、歩行練習することで歩行速度や歩行率の改善が期待される。一方非適応群についても分析を行うことで更なるHALの有用性を検証していきたい。【理学療法学研究としての意義】 運動機能障害者に対して、HALの歩行に対する効果を検証することは今後HALを理学療法介入のデバイスとして用いるためには重要であり、本研究はその基礎となる。