抄録
【はじめに】 近年、IT技術の発展に伴い、医療・介護・福祉分野においてロボットの利用が試みられ、その可能性が注目されてきている。リハビリテーション領域では、CYBERDYNE社製HAL(Hybrid Assistive Limb)が臨床応用されるようになり、当院でも平成23年3月よりロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)を導入した。HALの特徴として、脳からの伝達信号を皮膚表面より検出され、コンピューターによりその信号を解析、装着者の意思に従って動作をアシストする。股・膝関節の屈曲,伸展をアシストし、その強さや関節の角度調節もでき、足底の荷重分布,重心移動も観察することができる。しかし、適応症例や効果などは明確ではなく、研究段階である。今回、維持期脳卒中患者にHALを装着し、有効性についてシングルケーススタディで検証したので報告する。【方法】 対象は当院外来通院中の脳梗塞による左片麻痺を呈した70代前半の男性である。発症は平成6年2月で既に17年以上が経過している。当院では、平成21年6月より理学療法を行っている。身長164.5cm,体重59.5kgである。Brunnstrom Stageは左上肢4,手指4,下肢5,歩行能力は下肢装具なしの独歩で移動可能である。しかし、足先が引っ掛かり転倒を繰り返していた。研究デザインは第1基礎水準期(以下A1期),第1操作導入期(以下B1期),第2基礎水準期(以下A2期),第2操作導入期(以下B2期)によるシングルケーススタディの反復型実験計画ABAB法を用いた。A1期,A2期には通常の機能練習を実施した。B1期,B2期では通常の機能練習に加え、HAL装着による歩行練習を30分実施した。実施回数は、週3回の頻度で実施した。期間は、A1期は21日間で9回,以下B1期,A2期,B2期はそれぞれ28日間で12回、計105日間とした。測定項目は10m歩行所要時間、Timed up& Go test(以下TUG)、最大一歩幅を練習開始前に実施した。効果判定は、グラフに測定値をプロットし、中央分割法にてCeleration Line(以下CL)を求め、目視にて分析した。また、U検定を各期間で行い、有意差を分析した。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 対象者には、本研究における目的と方法を十分に説明し、同意を得た上で行った。【結果】 10m歩行所要時間のCLの傾きは、A1期-0.106,B1期-0.5,A2期-0.2、B2期0.083であった。U検定ではA1期とB1期では有意差を認めた(P=0.042)。TUGのCLの傾きはA1期-0.14,B1期-0.14,A2期-0.2,B2期0.1であった。U検定はA1期とB1期は有意差を認めた(P=0.0007)。左麻痺側下肢の最大一歩幅のCLの傾きはA1期0.285,B1期3.5,A2期0.111,B2期0.2であった。U検定はA1期とB1期は有意差を認めた(P=0.00024)。【考察】 シングルケーススタディABAB法で、10m歩行所要時間,TUG,最大一歩幅においてHAL介入で改善が見られた。3項目の評価は過去の文献では、日常生活動作能力と相関が高く、関連があると言われていることから、HALによる介入により、筋力,バランス能力,瞬発力などの応用動作に必要な要素が習得できるのではないかと示唆された。【理学療法学としての意義】 本研究の意義は、シングルケーススタディABAB法を用いて発症から17年以上経過した維時期脳卒中片麻痺患者のHALを用いた介入により歩行スピード及びTUG,最大一歩幅に改善を認めることが示唆され、その有用性を確認できたことである。今後は症例数を増やし歩行速度や異常歩行パターンの改善および持久力や筋力の改善との関係を検討していきたい。