抄録
【はじめに、目的】 理学療法の現場では杖は様々な目的で使用されている。一般的に杖を用いた部分荷重練習や、杖への荷重を測定する際には体重計を用いるが、実際の歩行動作時にかかる杖への荷重については、床反力計などの高価な機器を用いなければ測定できないのが現状である。本研究の目的は、歪みゲージを用いて簡便かつ安価に歩行動作時の杖荷重を測定できる杖を製作し、臨床応用として視覚的フィードバックを用いた運動学習について検討することである。【方法】 1.荷重測定杖の製作と測定精度の確認:市販のアルミ製のT字杖(300g)を用いた。杖にかかる鉛直方向の力を測定するため、杖の柄から12cm下方に金属箔歪みゲージを4枚取り付けた。次に、杖とブリッジボックス(ブリッジのバランスをとる回路とキャリブレーションを行う回路を組み込み、10cm四方の箱に内蔵したもの)を2芯コードで接続しブリッジ回路を構成した。ブリッジボックスと専用増幅器を10mのリード線で接続し、歩行動作時に杖にかかる荷重量を電圧で測定できるようにした。出力電圧はブリッジ回路の出力の500倍とし、デジタルオシロスコープ(Tektronix社製 TDS2001C)を使って表示ならびに記録した。電圧と力の関係を確認するため、以下の方法でキャリブレーションを行った。まず0点調整を行い、その後、杖を体重計にのせ垂直方向に10kg、15kg、20kgの荷重を加え、そのときにブリッジアンプに出力される電圧を測定した。各被験者の測定前に各荷重につきキャリブレーションを行い、測定精度を確認した。2.荷重測定杖の実用性の評価:製作した杖の実用性を評価するため、以下の実験を行った。対象は健常な男子学生10名であった。平均年齢は19.6歳(18~21歳)、平均身長は170±5.8cmであった。被検者に杖の使用方法を説明した後、杖の長さを被験者ごとに調整した。ブリッジボックスを被験者のベルトに取り付け、振動を減らすため両面テープでブリッジボックスとベルトを固定した。その後、被験者には杖に10kg、15kg、20kgの荷重を加えながら杖歩行を行わせた。練習中はオシロスコープに表示される電圧をビデオ撮影し、それをスクリーンに投影し、被験者が杖の荷重量をいつでも把握できるよう視覚的フィードバックを与えた。被験者が杖に荷重したときの電圧と、10kg、15kg、20kgの基準電圧がオシロスコープの画面上に同時に表示されるよう設定した。被験者には杖に荷重したときに表示される電圧が基準電圧と等しくなるように杖をつくよう指示した。練習時間は各荷重につき5分とした。その後、運動学習効果を評価するため、被検者には視覚的フィードバックを与えない状態で、5mの歩行路をややゆっくりの速度で杖をついて歩いてもらった。測定は各荷重につき3回行った。解析は3歩行周期中に杖が床に接地したときの出力電圧の最大域の平均値を荷重ごとに求め、被験者間のばらつきを算出した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の趣旨と内容について口頭にて十分に説明し、文書にて同意を得た。また、未成年者については代諾者の同意を得ることにした。【結果】 キャリブレーションの結果、10kg、15kg、20kgでの荷重と出力電圧の関係は直線的な比例関係が得られた(r2=0.99)。各荷重でのキャリブレーション時の各電圧の平均値および標準偏差は10kg:60±9mV、15kg:96±10mV、20kg:132±17mVであった。実際の歩行動作時の10kgの荷重課題に対し、被験者がT字杖に加えた荷重の平均量は11.7±2.3kg、15kgの荷重課題では14.5±2.5kg、20kgでは19.5±2.2kgであった。【考察】 本結果より、今回製作した荷重測定杖の荷重と出力電圧の関係は直線的な比例関係が得られ、一定の精度があることが示された。本来、杖は高い剛性を持ち歪みが小さいにもかかわらず、高精度で測定できたことはゲージの接着が良好だったためと考える。また、健常学生による視覚的フィードバックを用いた杖歩行の運動学習効果も良好であったことから、実際の患者に本杖を適用できる可能性を示せた。今後は、脳卒中や手術後のケースにおける杖歩行の定量的な評価ツールとして今回製作した杖を活用し、評価を行う。一方、課題として測定精度を高めるには、歪みゲージの劣化に対する対策が必要であり、これはゲージの周囲を特殊な接着剤で保護することにより改善が可能であると考える。さらに、10mのリード線の代わりにテレメーターシステムを用いれば、測定中のノイズの混入を最小限に抑えられるため、今後の課題として検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】 今回製作した荷重測定杖は、杖歩行動作時の荷重を定量的かつ簡便に測定することができ、制作費も安価である。このことから、臨床への応用は十分に期待でき、定量的な歩行分析のツールや運動学習のフィードバックツールとしても大いに有用であると考える。