理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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モジュール型の座位保持装置の選択についての再考
中島 大輔
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p. Eb0636

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抄録
【はじめに、目的】 モジュール型の座位保持装置の開発改良は目覚ましく、その調整機能には優れた点が多くある反面、座位保持装置の中でもモジュール型は基準額(補装具の購入、修理に要した費用)が高額である。実際に利用者がモジュール型の座位保持装置の支給を受ける場合、厚生労働省から完成用部品として認められたものであれば、利用者の負担は障害者自立支援法で定められた所得に応じた負担額のみであるが、補装具費(基準額から利用者負担額を除いた額)が高く、市町村にかかる財源的負担が課題となる。そこで今回、モジュール型の座位保持装置を申請した利用者に対して現状の調査を行い、座位保持装置の選択について検討した。【方法】 調査対象は、平成21~23年度にかけて、モジュール型の座位保持装置を申請した12症例で、平均年齢9.2±5.2歳(mean±SD)であった。疾患は、脳性麻痺10名、急性脳症後遺症1名、結節性硬化症1名で、GMFCSレベルIV~Vであった。調査内容(調査方法)は次のとおりであった:(1)申請前の座位保持装置の使用状況(担当のPT、OTからの聴取)、(2)座位保持装置の申請事由(医師の意見書の閲覧)、(3)座位保持装置の基準額(補装具業者の見積もりの閲覧)、(4)給付後の座位保持装置の使用状況(担当のPT、OTからの聴取)。【倫理的配慮、説明と同意】 調査に関わる症例に対して、保護者に調査目的を口頭で説明し、同意が得られた児のみを対象とした。【結果】 (1)申請前の座位保持装置の使用状況については、12症例ともに問題を生じていた。その問題は、座位保持装置にて姿勢が崩れる(10名)、介助の負担が大きい(5名)、上下肢の傷や自傷行為がある(2名)、座位保持装置から降りたがる(1名)、サイズが合わない(1名)という内容であった。(2)座位保持装置の申請事由は、安定した座位の獲得(8名)、側彎変形への対応(7名)、上下肢の傷への対応(2名)、特記事項の記載なし(3名)という内容であった。症例ともにモジュール型の座位保持装置の給付は認められているが、これらの座位保持装置が高額であることから、申請時にその座位保持装置を選んだ事由を明記することが求められ、座位保持装置を検討した結果等を書面や写真で添付した症例もあった。(3)座位保持装置の基準額基準額は53.0±8.4万円(mean±SD)であり、他の座位保持装置(20数万円程度)と比べると高額であった。(4) 給付後の座位保持装置の使用状況給付後の座位保持装置の使用状況として、姿勢が崩れなくなった(9名)、介助負担の軽減(5名)、筋緊張が減って長時間座位保持装置に座れるようになった(3名)、頚部や上肢の自動運動が可能になった(2名)、傷をつくらなくなった(2名)、座ることを嫌がらなくなった(2名)という回答があった。【考察】 体幹パッドの位置や角度の細やかな調整により、成長や側彎変形に即応できるため、モジュール型の座位保持装置による良好な結果が確かめられたが、基準額、補装具費が高額であるため、デモ機試乗や支給を受けている他の座位保持装置との比較を行い、モジュール型の支給の必要性を市町村に対して明確にすることが求められた。補装具費は限られた公的予算の中から支出されるため、もし他の座位保持装置で同様の効果が得られるのであれば、比較的安価な座位保持装置を選択するのは当然である。補装具費の調査において、モジュール型の座位保持装置は、一般的な工房いすと比較すると約2倍の補装具費を要する結果が出ている。このことからも、GMFCSレベルIV~Vのすべての脳性麻痺児にモジュール型の座位保持装置を提供することは現実的に困難である。同様に、市町村の財源的負担を考慮すると、座位保持装置の中に含まれる座面の昇降機能、多機能であるが高額なヘッドサポート等も日常生活における必要性を市町村に説明する責任をその症例を担当しているPT、OTは求められる。また、モジュール型の座位保持装置の中でも補装具費に差があり、その選択に関しても脳性麻痺児の親のニーズだけではなく、座位保持装置に関する知識と日常生活場面での明確な必要事由の説明がなされるべきであろう。また、今回の調査では、成長や側彎変形に即応できる良好な結果が示されたが、作製から1年未満の症例が多く、費用対効果の観点からも、複数年にわたり経過を追う必要があり、今後の観察を継続したい。【理学療法学研究としての意義】 我々は、個別のニーズや障害に応じて座位保持装置などの補装具を選択し、情報提供しているが、社会に貢献できるPTとしての役割を担う上でも、個別の症例のみではなく過去に作製した補装具を再考することにより、市町村の財源を含めた包括的な視点をもつべきと考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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