抄録
【はじめに】 移動補助具は,運動機能を補助し,活動範囲や参加の場を拡大する.種類や使用方法は使用者の状況により異なる.我々は過去15年間で5年毎3回にわたり移動補助具の使用状況を分析し,日本理学療法学術大会等で報告してきた.第3回調査から5年が経過し,今回第4回調査を実施したためここに報告する.【方法】 対象は当センター利用者で移動補助具を有する者のうち,調査可能であった481例(男性278例,女性203例,平均年齢16.6±11.3歳)であった.調査方法は対象者が所有する移動補助具を全て列挙し,1)移動補助具の総延べ件数を調査した.また,移動補助具を車椅子群(W/C群),杖群,歩行器群,殿部サポート歩行器群(殿部W群)の4群に分類し,各群内における2)移動補助具件数割合の比較,3)年代別使用割合,4)使用場所・頻度,5)移動・移乗自立度の調査を行った.なお,2)については過去の調査と比較した.【説明と同意】 対象者に本調査の主旨を説明し,同意を得た.【結果】 1)移動補助具の総延べ件数は788 件であった.内訳は,W/C群はバギー200件(25.4%),車椅子(W/C)287件(36.4%),電動車椅子(PW/C)60件(7.6%)であった.杖群はロフストランド杖(L杖)39件(4.9%),T杖4件(0.5%)であった.歩行器群は後方支持型歩行器(PCW)35件(4.4%),手掌支持歩行器キャスター付(U-W)12件(1.5%),前腕支持歩行器11件(1.4%),体幹支持歩行器5件(0.6%),体幹・前腕支持歩行器4件(0.5%),手掌支持歩行器キャスター無1件(0.1%)であった.殿部W群はSRC歩行器(SRC)75件(9.5%),UFO歩行器(UFO)10件(1.3%),股ベルト付歩行器(股ベルトW)18件(2.3%)であった.その他は27件(3.4%)であった. 2)移動補助具件数割合について,W/C群は,バギーは初回の21.8%から漸増し今回は36.6%を占めた.一方,W/Cは初回の72.0%から漸減し今回は52.5%であった.PW/Cは初回から第2回にかけて6.2%から12.8%と倍増したが,その後は増減はみられなかった.杖群はL杖が90%前後を占める状況が初回より継続してみられた.歩行器群は,PCWが初回10.0%から漸増し今回は51.5%であった.U-Wは第2回の50.0%をピークに減少し今回は17.6%であった.殿部W群は,第2回まではSRCのみであったが,前回からUFOと股ベルトWが登場し,それに伴いSRCが今回72.8%と減少した.UFOは前回20.2%から今回9.7%へ減少した.一方で, 股ベルトWは前回7.9%から今回17.5%へ増加した. 3)年代別使用割合について,W/C群では幼児期はバギーが88.5%と大多数を占め,小学生以降年代が上がるにつれ漸減し,成人では12.3%であった.一方,W/Cは幼児期11.5%から漸増し,成人では68.2%であった.PW/Cは小学生以降でみられ,最少年齢は7歳2ヵ月であった.杖群ではL杖が各年代でみられた.歩行器群ではPCWが小学生75.0%と高率であるが,他の年代では半数以下であった.殿部W群では,SRCは幼児期44.4%から年代が上がるにつれて割合が増加し,成人では100%であった.UFOは幼児期から学齢期でみられた.股ベルトWも幼児期から学齢期でみられ,幼児期では44.4%と約半数を占めた. 4)使用場所・頻度について,W/C群では屋内外使用が82.1%と最多であった.また,頻度は週5日以上が68.2%であった.杖群では,屋内外平地使用が41.9%で,階段等を含む移動全般での使用が20.9%であった.頻度は,週5日以上が76.7%であった.歩行器群では,屋内使用のみ58.8%,屋内外使用30.9%であった.頻度は週5日以上が67.6%であった.殿部W群では,屋内使用のみが83.5%であった.頻度は週5日以上が35.9%であった. 5)移動・移乗自立度について,W/C群ではバギーは移動,移乗とも全介助であった.W/Cは移動自立16.0%,移乗自立22.3%,両者自立13.6%であった.PW/Cは移動自立76.7%,移乗自立11.7%,両者自立11.7%であった.杖群では,L杖は移動自立69.2%,移乗自立76.9%,両者自立61.5%であった.歩行器群では,PCWは移動自立54.3%,移乗自立62.9%,両者自立48.6%であった.U-Wは移動自立33.3%,移乗自立41.7%,両者自立25.0%であった.これら以外の歩行器では移動と移乗の両者が自立しているものはみられなかった.殿部W群では,SRCとUFOの移動自立は各々4.0%,10.0%であり,移乗自立は0%であった.股ベルトWは移動自立,移乗自立とも0%であった.【考察】 移動補助具件数割合について, これまでの移動補助具の進歩により適用の際の選択肢が増加し,利用者の希望・移動能力・生活環境・体格等に合わせ使用状況が多様化し,その結果が今回の調査結果に反映されたと考える.また, W/C群・杖群・歩行器群において,PW/Cを除き,使用頻度は高いが,移動・移乗自立割合は低いという結果がみられた.これは,介助量軽減目的での使用や,移動・移乗に援助を受けることで生活の中で実用化されているという使用状況が一因として考えられる.【理学療法学研究としての意義】 過去15年間の移動補助具の使用状況を知ることで,今後の移動補助具の選択,導入時期の一助となる.