抄録
【はじめに、目的】 脳性麻痺(CP)は多様な障害像を示すが、四肢、体幹に痙性筋が存在することによって生じる関節可動域制限は、円滑な歩行動作を阻害する主たる制限因子となる。このような場合、観血的な治療として選択的痙性コントロール術(OSSCS)を行うことが多いが、治療効果として関節可動域制限は改善されるものの、歩容の改善にはつながらないことを臨床的に経験する。術後の下肢装具として、関節可動域の維持を目的に底屈制限0°、背屈制限5~10°に設定した金属支柱つき短下肢装具(M-AFO)が多く処方される。しかし、その角度設定では踵接地は可能になるがその後の膝関節の屈曲が生じ、結果的にAFOの背屈制限によって立脚期の安定性を高めている場合が多い。近年、足継手に制動機構を備えたAFOによって、脳卒中片麻痺患者の歩容改善効果が報告され、AFO装着時のロッカーファンクションの重要性が示唆されている。そこで、本研究では整形外科的治療によって関節可動域の改善や痙性の減弱がみられた患者を対象に、足関節底背屈に制動をかけることのできる底背屈制動機能つきAFO(DB-AFO)の効果について三次元動作分析装置を用いて評価し、裸足、M-AFOと比較することでDB-AFOの術後治療用装具としての有用性を検討した。【方法】 対象者は下肢の選択的筋解離術後3か月以上が経過し、M-AFOを装着して日常的に歩行が可能な脳性麻痺右片麻痺患者2名とした。動作課題は10mの自由歩行とし、裸足、M-AFO、DB-AFOの3条件とした。各条件とも10分程度の練習時間を設定し、5~6試行をランダムに実施した。歩行の評価は赤外線カメラ12台と床反力計6枚で構成された三次元動作分析装置(VICON612)を用いた。計測した各試行において、1歩行周期における歩行速度・歩幅・下肢関節角度・関節モーメント・COG上下方向位置の移動量を算出した。また、M-AFOとDB-AFOの着用感について聴取した。データ分析は、対象者ごとのパラメータの試行間平均値を求め、各条件間で比較した。統計処理は一元配置分散分析を用い、その後多重比較検定(Tukey-Kramer法)により、それぞれの群間比較を行った。なお、統計処理における有意性は危険率5%水準で判定した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を受けた。また、対象者とその家族には本研究の目的・方法・リスクの説明を行い、書面による同意を得た。【結果】 歩行速度は裸足が最も遅く、M-AFO、DB-AFOの順で有意に増加(P<0.05)した。麻痺側の下肢関節角度は、DB-AFO装着時に踵接地後の足関節底屈運動がみられ、その後の両脚支持期から単脚支持期にかけて膝関節の伸展がみられた。COG上下方向位置は、麻痺側単脚支持期においてより上方に位置していた。AFOの着用感については、DB-AFOが歩きやすい、動きやすいとの肯定的な意見もあったが、もたれようとすると逃げる、安定感がないなどの感想も聴取された。【考察】 本研究では、CP患者を対象にOSSCS術後の治療用装具として、DB-AFOによる底背屈制動機能の有用性を検討した。結果からDB-AFOを着用することで、歩行速度の増加や踵接地後の足底接地(ヒールロッカー)、両脚支持期から単脚支持期にかけての膝伸展(アンクルロッカー)がみられ、足継手に制動機能を付与することの効果が示された。しかし、着用感についてはDB-AFOの「動きにブレーキをかける」という特性を理解しないと不安感につながることも明らかになった。従来のM-AFOとDB-AFOの特性の違いは、制限角度内における足関節底背屈運動に対するブレーキの有無である。このことは、対象者の歩行戦略の違いとなって現れてくることが考えられ、M-AFOでは足背屈位での制限によりstaticな支持を得られるものの、術前と変わらない歩容から脱却できない一方で、DB-AFOでは踵接地後のヒールロッカー、荷重応答期から立脚中期のアンクルロッカーと一連の動作が出現することで、関節運動を制動することによるdynamicな支持を得ながら効率的な歩行戦略にシフトすることができると考えられる。このことから,DB-AFOは手術によって得られた関節可動域を有効に歩行に生かし,効率的にトレーニングを進めるための治療用装具として有用であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究は底背屈制動機能つき短下肢装具のCP患者への術後治療用装具としての有用性を示し、CP患者への新たな装具療法の可能性や理学療法の展開につながると思われる。