抄録
【はじめに、目的】 当院では入院中の患者に対し必要に応じて装具診を行い、装具の必要性の検討、作成を行なっている。歩行の自立を目指し作成した装具が患者に最適なものとして活用できているか悩みを抱えながら日々の臨床に携わっている。今回、本研究では装具作成した脳卒中患者の入院時の動作能力と退院時歩行自立度、特に歩行自立に至らない患者の特徴を捉えることを目的とした。現状の把握と結果に対して考察を加え以下に報告する。【方法】 対象は平成22年6月1日より平成23年6月30日までに当院に入院した脳卒中患者のうち下肢装具の処方があった49例(男性29例 女性20例、平均年齢65.9歳±10.7)とした。カルテ記録より後方視的に以下の情報、1)作製した短下肢装具の種類とその割合、2)発症から装具作製までの期間 3)入院から装具作製までの期間、4)作製から退院までの期間、5)退院時歩行自立度、6)退院先を収集した。また退院時歩行自立度を分類化し、7)入院時の動作能力について(起居動作、移乗動作、座位保持、立位保持)の介助量の傾向を追った。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての症例や家族に対してヘルシンキ宣言に基づき、研究内容を口頭で説明し、同意が得られたのち、個人データの管理に配慮して本研究を実施した。【結果】 1)長下肢装具2例、両側支柱型短下肢装具(クレンザック足継ぎ手付)14例、プラスチック製短下肢装具(タウメル足継ぎ手付)1例、プラスチック製短下肢装具タマラック継ぎ手18例、プラスチック製シューホーン型短下肢装具3例、プラスチック製短下肢装具(オルトップAFO)6例、プラスチック製短下肢装具(セパ)5例、2)116.3日、3)73.4日、4)8.4日、5)屋外自立群8.1%、屋内自立群28.5%、屋内介助群50.3%、車椅子使用群10.2%、6)自宅88.9%、転院8.3%、介護老人保健施設等の施設2.8%、 7)屋外歩行自立群では、起居動作全介助1例、一部介助1例、自立2例。移乗動作全介助1例、一部介助1例、自立2例。座位保持見守り1例、自立3例。立位保持全介助1例、見守り1例、自立2例。屋内歩行自立群では、起居動作一部介助5例、見守り4例、自立5例。移乗動作全介助1例、一部介助4例、見守り6例、自立3例。座位保持見守り9例、自立5例。立位保持全介助1例、一部介助1例、見守り9例、自立3例。屋内歩行介助群では、起居動作全介助2例、一部介助17例、見守り5例、自立2例。移乗動作全介助3例、一部介助3例、見守り19例、自立1例。座位保持全介助1例、一部介助12例、見守り2例、自立11例。立位保持全介助5例、一部介助7例、見守り10例、自立4例。車いす使用群では、起居動作全介助2例、一部介助3例。移乗動作全介助3例、一部介助2例。座位保持全介助1例、一部介助1例、見守り1例、自立2例。立位保持全介助3例、一部介助1例、見守り1例。【考察】 本研究における当院の装具作成を実施した脳卒中患者の在宅復帰率は89%であった。退院時点で歩行自立に至らなかった患者は60.5%であった。下肢装具が歩行の獲得のためだけでなく、日常生活動作の自立や介助量の軽減にも意味を持つことが考えられる。退院時に歩行機会を得られた患者群(屋外歩行自立群、屋内歩行自立群、屋内歩行介助群)は、入院時の動作能力の特徴として立位保持が可能なことが分かった。また、退院時に歩行自立に至らなかった患者群(屋内介助群と車椅子使用群)は入院時より起居動作や座位保持にも介助を必要としていることが分かった。脳卒中患者では身体機能と高次機能障害との関係を考慮し、歩行自立度を評価する必要があり、今後も追跡調査の必要性を感じた。今後も歩行の自立度や日常生活活動の介助量軽減を目指し、患者をより深く評価し、的確なアプローチを行う必要があり、その中で装具の有無、装具の作成時期・種類の更なる検討も必要になってくると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究は当院における装具の処方および作成の現状について把握し、傾向を分析した。様々な視点から装具の目的や有用性を分析することがリハビリテーションサービスの向上につながると考える。