理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
狭小スペースで実施可能なStep TUG Testの信頼性と妥当性について
岡前 暁生池添 冬芽岡田 誠松下 和弘和田 智弘眞渕 敏島田 憲二山本 憲康福田 能啓道免 和久
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キーワード: TUG, 信頼性, 妥当性
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p. Eb1259

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抄録
【はじめに、目的】 Timed Up and Go Test(以下 TUG)は、立ち上がり、歩行、方向転換、座り込み動作を含み日常生活における総合的な移動能力を評価することができ、3mの歩行スペースがあれば実施可能で臨床現場においても実用性が非常に高い。日本理学療法士協会が開発したアセスメントセットE-SASにおいても移動能力の評価として用いられ、高齢者の身体機能に応じた基準値も設定されている。しかし、訪問リハビリテーションのような評価場所が限られる場合や病院のベッドサイドなど3mのスペースを確保することが難しい場合もある。そこで今回、TUGにおける3m歩行の課題の代わりに立位で足踏みを行うTUG変法(以下 Step TUG)を考案した。本研究では3mの歩行スペースがなくても、その場で実施することが可能なStep TUGの測定の信頼性と高齢者の総合的移動能力の評価指標としての妥当性をTUGと比較し検討することを目的とした。【方法】 対象は、当医療センター併設の介護老人保健施設の介護予防通所リハを利用する要支援1もしくは2の高齢者22名(男性5名、女性17名、平均年齢81.9±5.7歳)であった。なお、測定に大きな影響を及ぼすほど重度の神経学的障害や筋骨格系障害および認知障害を有する者は対象から除外した。Step TUGの測定方法は肘掛け付き椅子を使用し、背もたれに寄り掛かった姿勢から開始し、立ち上がってその場で規定のステップ回数だけ足踏みを行った後、180°方向転換し、再びその場で足踏みをしてから椅子に座り込むまでの一連の動作時間を測定した。なお、規定のステップ回数は、3m歩行するのに要する歩数を想定し、測定の前に1歩踏み出したときの歩幅を測り、3mを歩幅(m)で除し、小数点以下を切り上げした値とした。一連の動作は可能な限り速くするよう指示し、2回測定したうえで速い方の値を採用した。測定前には口頭と動作で説明し、最低2回は練習して確実に一連の動作ができることを確認した後に測定した。検者内信頼性は、1回目の測定日から1週間後に同一の検者が同様の方法で実施し級内相関係数(以下 ICC)(1,1)を求めた。測定は2日ともTUGとStep TUGの両テストを行った。さらに、TUGとStep TUG の測定結果について標準誤差(以下 SEM)、95%信頼区間(以下95%CI)を検討した。検者間信頼性は検者2名が同日に実施しICC(2,1)を求めた。妥当性はTUGとStep TUGの結果からSpearmanの相関係数を求めた。また、Bland-Altman分析を用いてTUGとStep TUGの差異を検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の主旨および目的を説明し、同意を得た。【結果】 今回の対象者におけるStep TUGの値は12.6±4.3秒(6.5-24.8秒)、TUGの値は12.5±3.9秒(7.2-22.3秒)であった。Step TUGとTUGとの間の相関係数は0.91(p<0.001)であった。Step TUGの検者内信頼性のICC(1,1)は0.96、SEMは0.63秒、95%CIは11.3~13.76秒、検者間信頼性のICC(2,1)は0.98であった。TUGのSEMは0.60秒、95%CIは11.18~13.54秒であった。Bland-Altman分析を用いてTUGと Step TUGの差を調べた結果、加算誤差、比例誤差は認められず、測定値の差は-0.1±1.3秒、誤差の許容範囲は-2.6~2.4秒であった。TUGの2回の測定値の差は0.2±1.2秒、誤差の許容範囲は-2.2~2.6秒であった。【考察】 Step TUGの検者内・検者間信頼性のICCはともに高く、Step TUGの測定の信頼性は高いと考えられた。Step TUGの妥当性に関してはStep TUGとTUGとの間に強い相関が認められ、またSEM、95%CIともにTUGの結果との差は小さく、さらにBland-Altman分析によりTUGとStep TUGの差異を検討した結果、2つの測定値の差・誤差の許容範囲は、TUGの2回の測定値の差・誤差の許容範囲と臨床上ほとんど同程度であると考えられた。このことから、Step TUGを測定することでTUGの測定値を推測できる可能性があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 TUGの歩行課題の代わりにステップ課題を用いるStep TUGは信頼性が高く、TUGの測定値と同等の結果が得られることが示された。臨床現場において3mの歩行路が確保できない場合、このStep TUGはTUGの代わりに高齢者の総合的移動能力を評価する手段として有効であると考えられる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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