理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
地域における尿失禁予防教室
─過去4年間の教室開催実績より─
吉田 遊子中藤 佳絵橋元 隆神﨑 良子西井 久枝
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キーワード: 尿失禁, 介護予防, 骨盤底筋
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p. Eb1269

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抄録

【はじめに、目的】 40歳以上の女性の約40%が経験しているといわれる尿失禁は身体的問題だけでなく、心理的・社会的問題にも影響を及ぼし、特に加齢により様々な変化をきたす高齢者においてはその問題はより顕著となる。北九州市では介護予防事業の一環として平成19年度から、市内3地区の理学療法士等が「女性のための尿失禁予防教室」を開催してきた。我々は指導養成機関として介入してきたので、過去4年間における教室開催実績について報告する。【方法】 教室は約3ヶ月間に全8回開催し、内容は初回(初期)と7回目(最終)に評価を行い、2回目には医師による個別問診が行なわれ、問診票に基づく診断が行なわれた。また、各回とも尿失禁に関する基礎知識の習得、生活上の自己管理能力の習得、相談場所等の情報提供を中心とした講義と骨盤底筋体操の指導を行った。さらに、運動の習慣化・継続化のためにホームエクササイズの指導と副読本を配布した。解析対象は平成19年度から22年度に市内で開催された全11教室に参加した40歳以上の女性149名(平均年齢68.8±8.6歳)で、尿失禁分類では腹圧性尿失禁(腹圧群)38名、切迫性尿失禁(切迫群)33名、両者の併存する混合性尿失禁(混合群)16名、過活動膀胱・神経因性膀胱(その他群)42名、尿失禁予防目的の者(正常群)20名であった。評価項目は年齢、身体測定(BMI・腹囲)、問診(国際尿失禁会議QOL質問票:ICIQ-SF)、排尿日誌(日中・夜間・1日排尿回数、1回平均・1日排尿量、尿失禁回数、1日飲水量)とした。統計処理は尿失禁分類による比較には分散分析及びkruskal-Wallis検定、多重比較(Tukey及びDunn検定)を使用し、初期と最終での比較には1標本t検定及びWilcoxon検定を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には参加申込み時に教室の内容を説明し、同市作成の同意書にて本事業の結果報告について同意を得た。【結果】 平均年齢は腹圧群66.4±9.8歳、切迫群73.2±6.9歳、混合群65.8±7.1歳で、切迫群が腹圧群・混合群に比べ高かった(p<0.01・p<0.05)。尿失禁回数では初期に腹圧群1.3±1.9回、切迫群1.5±2.2回、混合群が0.9±1.6回と正常群に比べ多かった(p<0.05)が、最終では腹圧群・切迫群において正常群と有意差が認められなくなった。初期と最終での比較では腹圧群の日中排尿回数(p=0.043)、1日排尿回数(p=0.076)、飲水量(p=0.016)、腹囲(p=0.005)が減少し、最大排尿量が増加(p=0.079)した。切迫群では1回平均排尿量が増加(p=0.049)し、BMI(p= 0.072)と腹囲(p=0.00065)が減少した。混合群では1日排尿回数が減少(p=0.052)し、最少排尿量が増加(p=0.084)した。その他群ではICIQ-SFが改善(p=0.014)し、日中排尿回数(p=0.0024)と1日排尿回数(P=0.0022)、1日排尿量(p=0.098)、飲水量(p=0.0017)、BMI(p=0.041)、腹囲(p=0.00067)が減少した。【考察】 加齢に伴い切迫性尿失禁が増加するといわれており、今回の対象者も同様の傾向が認められた。骨盤底筋体操は比較的軽度の腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁に対する改善効果があるといわれているが、今回の教室では骨盤底筋体操の指導に加え、適切な飲水量や種類、排尿習慣の指導等を行ったことで、飲水量が適正化され、1回平均排尿量の増加・排尿回数の減少に至ったと考える。また、骨盤底筋体操は腹式呼吸と骨盤底筋の収縮を中心に行うが、BMIや腹囲が減少したことから、体幹インナーユニットの活性化が図られたことが示唆される。さらに、ICIQ-SFが改善したことから、本教室が社会参加への自信を取り戻す機会にもなっていることが伺える。本教室は腹圧性尿失禁を重点対象者と掲げているが、年齢層が40~87歳と多岐にわたり、また尿失禁ではなく過活動膀胱や神経因性膀胱が多く含まれたことから、今後は潜在的な幅広い市民への情報提供の場を検討していかなければならない。【理学療法学研究としての意義】 尿失禁の悩みを持つ40歳以上の女性を対象として骨盤底筋体操と生活指導を目的とした教室を開催した結果、排尿状態及びQOLの改善効果が認められ、本教室は介護予防に寄与するといえる。また、女性の尿失禁の問題に対して、理学療法士が積極的に介入していく必要性が示唆された。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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