理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
介護予防事業において運動負荷設定方法で身体機能の改善に違いはあるか?
―自己設定と理学療法士の設定による比較―
瑞慶覧 朝樹中村 潤二尾川 達也生野 公貴三ツ川 拓治徳久 謙太郎佐藤 達也松本 大輔乾 富士男
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p. Eb1270

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抄録

【目的】 現在,多くの市町村で介護予防事業が実施され,集団を対象とした様々な取り組みが行われている.介護予防事業への参加により身体能力や生活の質が改善したとする報告は多いが,その効果は一定していない.この理由には,それぞれの報告で介入時間,量,内容等が統一されていないことが考えられる.また,介護予防事業は必ずしも理学療法士(PT)等の管理指導者の配置義務があるわけではないため,指導者の数が少なく,参加者各々に対して適切な運動の設定が行われていない可能性が考えられる.したがって,個別に適切な運動内容もしくは運動負荷設定を行うことで,介入効果を高める可能性があるが,個別の能力変化に応じた運動設定を比較している報告はない.そこで,研究の目的は運動負荷の設定を参加者の判断で行う群(自己設定群),PTが参加者各々の能力を個別で評価し運動設定を行う群(PT設定群)で,身体機能の効果の違いについて比較,検討することとする.【方法】 対象は隣接した異なる地域で実施された介護予防事業に参加した地域在住の特定高齢者で,自己設定群35名(男性7名,女性28名,平均年齢76.6±4.5歳),PT設定群33名(男性5名,女性28名,平均年齢74.8±6.1歳)とした.教室は両群ともに90分,週1回の運動教室を10回の3か月間実施し,PTと参加者の割合として,自己設定群ではPT一人あたり参加者15~20名,PT設定群ではPT一人あたり参加者3~5名で行い,両群共に複数名のボランティアの協力を得て運営した.教室内容は,自己設定群では座位および,立位姿勢での下肢筋力増強を目的とした運動プログラムを行い,運動負荷はややきつい程度とし,重錘ベルトを使用して自己設定で行い,運動内容は教室中同一とした.同様の運動内容をリーフレットで配布し,ホームエクササイズとして指導した.PT設定群では初期評価で得られた値から各個人に目標を提示し,各参加者の必要度に応じて,トレーニングマシン,下肢を中心とした運動プログラムを実施し,ホームエクササイズ指導を行った.また,参加者の能力に応じて運動負荷量は可能な限り漸増した.評価項目は,30秒椅子立ち上がりテスト(CS30), 最大歩行速度,Timed up and go test(TUG)とした.両群ともに初回および最終回に評価を行った.統計解析は群要因と時間要因による二元配置反復測定分散分析を用い,有意差がみられた要因に関して,Bonferonni法による多重比較を行った. 【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の主旨を説明し,紙面にて参加の同意を得た. なお,畿央大学研究倫理委員会の承認を得ている.【結果】 年齢において両群で有意差は認めなかった.分散分析では,CS30,最大歩行速度,TUG全てにおいて交互作用(F=5.97;p<0.01,F=15.52;p<0.01,F=11.81;p<0.01)と時間要因(F=73.35;p<0.01,F=8.34;p<0.01,F=40.67;p<0.01)に有意差を認めた.多重比較では,両群間での介入前の比較において,最大歩行速度のみ両群に有意差はなかった.群内比較では,自己設定群はCS30のみ有意な改善を認め(介入前15.3±2.6回,介入後17.3±3.2回,p<0.01),PT設定群はCS30(介入前13.2±4.4回,介入後16.7±4.1回,p<0.01),最大歩行速度(介入前1.5±0.2m/s,介入後1.7±0.3m/s,p<0.01),TUG(介入前8.7±2.6秒,介入後7.3±1.8秒,p<0.01)に有意な改善を認めた.【考察】 PT設定群はCS30,最大歩行速度,TUGの全項目で交互作用を示し,介入前後において有意な改善がみられた.両群は共に下肢中心とした運動プログラムを行っており,CS30において有意な改善がみられた.また,PT設定群は自己設定群と比べて,より大きな改善を認めたことから,参加者の能力に応じた運動内容と運動負荷を設定することで,下肢筋力に有意な改善が得られたと考えられる.最大歩行速度,TUGにおいては,自己設定群と比べてPT設定群でより大きな改善を認めたことから,PT設定群は運動負荷としてトレーニングマシンを実施しており,自己設定群で用いた重錘ベルトでは参加者の負荷量としては適切ではなかったこと,自己判断であるため適切な負荷量ではなかったと考えられ,PT設定群のほうが適切な負荷設定と対象者に応じた運動プログラムの選択が歩行や動的バランスの改善に寄与したと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果からPTが介護予防事業に積極的に参加し,参加者各々に対して個別で評価を行い,能力に応じた適切な運動内容および,負荷量の設定を行うことが,身体機能の改善により効果的である可能性が考えられる.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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