理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
若年健常者の荷物所持による立位バランス特性の評価
山川 亜里佳森嶋 直人伸井 勝中川 博文
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p. Eb1284

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抄録

【はじめに】 高齢者の転倒事故発生時の多くが荷物所持者だったとの飯干ら(1997)の報告があるが,荷物所持が転倒の直接的な要因かどうかは定かでない.しかし,荷物所持時の安全性確保は転倒予防やADL上の観点から重要である.荷物所持で姿勢の安定性低下が予想されるが,そのメカニズムは良くわかっていない.筆者らは高齢者の安定姿勢の維持・向上に役立つ資料作成に向けて,これまで荷物所持と立位姿勢の関係解明に取り組んできた.今回,特に注目した所持方法は斜めがけである.これは片方の肩に,ベルトを斜めにかけて鞄を所持するため,荷重は左右両側に分担され,両手は自由となる.そのため,鞄の中身の取り出しも比較的容易で,足への負担も少なく立位・歩行動作がしやすい等より高齢者には適していると考えた.その一方,鞄の重みで体幹側屈モーメントが発生するため,これに対抗する内部モーメントが必要となる.外部モーメントは鞄の重みやベルトの傾斜角等に依存し,これがバランスに影響を及ぼすと考えられるが,その程度は不明である.そこで,本研究は斜めがけ鞄所持が立位バランスに及ぼす影響を力学的視点から明らかにするために,若年健常者を対象に基礎研究を行ったので報告する.【方法】 19~25歳の若年健常者12名を対象に,最初は非所持で30秒間立位時の足圧分布をフットビュークリニック装置(株式会社ニッタ社製)により測定(サンプリング数:20Hz)し,圧中心縦比率(以下λと略)および圧中心移動軌跡長(以下LNGと略)を求めた.被験者にはRomberg肢位で,2m前方目の高さに設置した十字マーカーを注視し立ってもらった.視覚の影響を考慮し閉眼試験も同時に実施した.鞄の重さは5kg一定とし,通常所持の肩かけベルト長は被験者が最も適した位置に調節して所持し,ベルトの傾斜角を正確に測定した.それとは逆の非通常所持で同様に測定を行った.また,鞄所持の合成重心は非所持に比べ変位するので,その量も測定した.統計分析はt検定および多重比較検定(Tukey-Kramer法)により行った.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認を受け,研究主旨を説明し書面にて同意を得た被験者を対象とした.【結果】 非所持の重心高は身長の57.4%だったが,荷物所持では61.8%と4%増加した.ベルトの傾斜角は25°で両端に荷重が均等に負荷される45°より小さかった.LNGは25.9cmから22.4cmに減少したが,有意差は認められなかった.通常時LNGは22.5cmと最小で,非通常では28.1cmで最大となった.閉眼LNGは通常時25.9cmと最小で,非所持が26.7cmで最大となった.通常時LNGは開閉眼とも非通常との間で有意差が認められた(P<0.05).次に,開眼時λの左右平均λM値は非通常時47.4%と最大で,非所持時47.1%と最小で,非通常の足圧中心が最も前方位置にあった.閉眼時λMは非所持48.3%と最大で,通常時47.3%で最小となった.以上の結果より,LNGとλ値との間に関連性があることも判明した.【考察】 通常の持ち方が非通常時と比べ身体動揺は少なく足圧中心位置も後方に位置していたことから,普段の慣れた所持方法の効果は大きいと考えられた.次に,鞄所持の合成重心高は非所持より高く,体幹側屈モーメントが作用しているにも関わらず非所持に比べ身体動揺は小さかった.重心が高い物体ほど外力が加わると不安定となり身体動揺は増加すると考えたが,実際は通常所持が最も安定した.これは左右の肩甲帯に1.5kgの重錘負荷を加え,立位時の重心動揺測定で総軌跡長が減少することを明らかにした原ら(2005)と同様の結果となった.彼等は重錘の圧縮荷重が脊髄前角細胞の興奮を高め姿勢の安定化に繋がったと述べており,本研究結果も同様のメカニズムによるものと推察された.また,開眼が閉眼時に比べ安定したが,20~60歳の姿勢制御に視覚の役割が全体の30%を占めるとしたIlmariらの報告(1998)にもあるように,視覚が深く関与したと考える.斜めがけ方法と立位姿勢の関係を力学的視点から解析したが,今後はさらに鞄の重さやベルト傾斜角の違いと高齢者への適用等について検討することにしている.【理学療法学研究としての意義】 高齢者・障害者の荷物所持行動はADL上の重要課題であり,これを安全に安心して行うことができるよう身体・環境の両面から整備していくことは理学療法士としての責務である.本研究はこの点を踏まえ,これに貢献することを目指していることから,理学療法研究としての意義はあると考える.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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