抄録
【はじめに、目的】 軽度要介護者は、歩行能力低下や生活機能低下の改善を目的に通所型のデイケア、デイサービスを利用することが多い。理学療法士による適切な機能評価と個別理学療法は一定の効果を上げているが、軽度要介護者の多くが利用するデイサービスの介護現場では、集団に対する効果的かつ転倒リスクを伴わない安全な運動プログラムが必要とされている。座位と立位における姿勢保持の特徴を運動力学的に報告した研究では、前額面上の成分に類似性があるとされる。また、歩行に見られる加齢変化は側方のパラメータが先行して低下するとの報告もある。これらは、座位での側方への運動が歩行能力を改善させる可能性を示唆すると考えられる。本研究は、座位で行なう側方運動が軽度要介護者の歩行能力を改善するかどうか検討することを目的とした。【方法】 奈良県内のA通所介護施設(デイサービス)を利用する要支援1、2の74名のうち、以下の組み入れ規準を満たし、同一曜日を利用する19名を研究対象者とした。組み入れ規準:屋内歩行が自立していること(杖やシルバーカーの使用可)、日常生活がほぼ問題なく送れる認知機能を維持していること、肩関節外転角度90°以上の自動運動が可能であること。介入としての座位運動プログラムは、施設内で8週間、週に1回実施した。通所以外の日に自宅で行なうプログラム(所要時間5分程度)も指導し、チェック表にて実施頻度を毎週確認した。実施時には運動指導者が見えるよう配置された椅子に対象者が座り、運動指導者は1名、実施中のリスク管理に補助者が2名の体制で行なった。1回のプログラムは約50分とした。ウォーミングアップとして、骨盤の前後傾、体幹の回旋、股関節の屈曲伸展、内外旋を促す運動をおこなった。座位運動の1種目は、側方への最大リーチをゲームとして実施した。2種目は速い側方の動きを目的とし、歌に合わせて左右への動きを反復した。この際、重心移動させた同側の上肢の挙上、反対側の下肢(股関節)内旋を振付けとして、体幹の立ち直りを促した。続いて自宅プログラムの説明、確認を行ない、最後にクールダウンを行なった。介入前後の評価測定は、プログラム実施者以外の複数名の理学療法士が関わった。調査票による評価は自記式としたが、手助けが必要な場合は適時、介護職員が援助した。評価項目は、歩行能力(5m通常・最速時間、Timed up & go test、以下TUG)、静的バランス(タンデム立位保持などを含むスコア)、下肢筋力(大腿四頭筋等尺性筋力(体重比))、主観的尺度(自覚的健康感、転倒に対する自己効力感)、うつ傾向(GDS 5)に加え、本研究プログラムの習熟指標として、座位での側方への反復運動の速さ(第46回本学術集会にてSeated Side Tapping testとして訂正報告)を評価した。統計学的解析は介入前後の評価結果について、連続変数は対応のあるt-testを、順位尺度の評価項目はWilcoxonの符号順位検定をおこない、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 事前に施設長から研究内容の承諾を得ており、対象者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。なお、本研究科研究倫理委員会の承認済みである。【結果】 研究対象者のうち、4名が除外された。介入後評価の辞退が2名(共に84歳女性)、介入後評価時期の欠席1名(85歳女性)、介入途中の入院(80歳男性)であった。分析対象者15名の平均年齢は84.5歳(70-93歳)、女性12名、プログラム参加率は90%であった。把握出来た診断名は腰椎関連疾患37%、高血圧症32%、変形性膝関節症と心疾患がそれぞれ21%、脳梗塞と糖尿病が各16%であった。介入前後の評価結果を示す。歩行能力は3項目全てが有意に改善した(5m通常歩行:平均値9.7秒→7.5秒、最速歩行:8.2秒→6.4秒、TUG:24.4秒→20.4秒)。座位での側方反復の速さの指標も9.8秒から8.3秒へ改善した。その他の評価項目は変化なし、もしくは微増に止まり、統計学的な改善を認めなかった。【考察】 側方運動要素を集中的に行なう8週間の座位での集団運動プログラムの結果、虚弱高齢者の歩行能力を有意に改善する効果が認められた。合わせてプログラムの習熟指標も有意に改善しており、座位での側方運動が歩行能力を安全に改善させる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 介護現場で実施容易な、歩行能力向上に効果のある座位運動プログラムを提供することは、増加する軽度要介護者への対応策となる。