理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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テーマ演題 口述
高齢者・障がい者の就労支援を目的としたユニバーサルデザイン型植物工場の提案に関する研究
奥田 邦晴岡原 聡岡村 英樹
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p. Ec1047

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抄録

【はじめに】 平成23年4月、本学に植物工場研究センターが設置された。一般に植物工場は「完全人工光型」と「太陽光併用型」に分けられ、本学の植物工場研究センターは、完全人工光型植物工場であり、未来都市型の多層型植物工場としては国内で初めてとなる。本研究センターでは多層型植物工場、すなわちリフトロボットの活用による立体型スペーシングに取り組んでおり、1~2階吹き抜けの7mの室内に15段の栽培棚を設けている。完全人工光型植物工場の特徴として、天候に左右されず、周年稼動が可能でさらに生産地を選ばないことが挙げられる。また、水耕栽培による農作業の軽労化・簡素化が容易であることおよび搬送装置の導入などで作業環境と栽培環境を区別することも可能で、作業環境の快適性も実現できる。【目的】 農業従事者の高齢化が進行する中で、高齢者や障がい者が快適に農業に従事できるように生産システムを改善し農業の競争力強化を図る必要がある。今回、私たちは、高齢者や障がい者の農業就労施設として完全人工光型植物工場を提案し、この植物工場のユニバーサルデザイン化について本研究センターの研究プロジェクトとして参画したので報告する。また、高齢者や障がい者の社会参加を促すとともに、植物工場での就労体験が彼らに及ぼす影響について検討する。【研究の背景】 厚生労働省の“障害者の就労支援対策の状況”によると、重度障がい者の就労場所としては、就労継続支援A型・B型事業所および授産施設が多く、月収が1万円程度と非常に低賃金であり、社会的・経済的自立が困難な状況であることが報告されている。また、身体障害者の農業就労は皆無であり、高齢者においても、一般的な露地栽培では、前傾姿勢や中腰姿勢の必要性や太陽光下での広い面積を耕すなどの過酷な作業が強制されるため、農業離れが深刻な問題となっている。その一方で、平成23年度高年齢者雇用就業対策の一環として、定年の引上げ、継続雇用制度の導入等による高齢者雇用の確保の推進を行っており、ますます増大してゆく高齢者雇用の受け皿が必要となっている。植物工場は作業の平準化、快適な労働環境、軽労化により労働負荷は軽減され、農業知識が無い者でも就労可能であることから、高齢者や障がい者の就労として期待できる。その実用化は、食料の安全で安定した供給や新産業の創出に結びつくことから、環境・食料・エネルギー・資源に関わる課題解決につながると期待され経済成長戦略の一環としても国家施策にも位置づけられている。また、植物工場はインドアであるが故に、天災、天候あるいは放射線等による被害から守り、無農薬で高品質の植物が栽培でき、高齢者や障がい者が十分な賃金を得ることができる場となり得る。【考察】 植物工場での作業は、播種・移植・定植・収穫等がある。一般的な植物工場では、これらの一連の作業をほぼ立位で行っているが、本学の植物工場センターにみられるように、リフトロボットの活用による多層型を用いることで、横移動の減少が図れ、定位置での座位作業が可能となり、高齢者や障がい者に適した就労場所となる。高齢者や障がい者が座位での播種・移植・定植・収穫等の作業を安全かつ快適に遂行できるように、車いす作業にフィットした作業台の高さ、作業用特製車いすの開発、視認性改善を図った各種機器、車いすが通行できる広い通路幅あるいは導線確保できるスペースや各種センサーの開発などを行っていくことが重要である。このような従来の植物工場の設計基準とは異なった設計や工夫を凝らしたユニバーサルデザイン型植物工場は、高齢者や障がい者の就労場所として大きな可能性を秘めているばかりか、健常者も共に働ける就労環境を構築することで、いわゆるミニノーマライゼーション社会の実現を可能にする。一方、対象物が植物であるが故に、その成長過程を通して心理的・身体的なリハビリテーション効果も期待できる。【理学療法学研究としての意義】 理学療法学研究において、農業という未知の分野での理学療法学の適応に関する可能性を明らかにできる点や、ユニバーサルデザイン型植物工場を提案することで、高齢者や障がい者の就労支援に寄与するとともに、彼らの社会参加を促進する。また、このような理学療法学研究が、国家の経済成長戦略に大きく貢献すること。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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