理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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テーマ演題 口述
軽度認知障害を有する高齢者に対する運動による認知機能低下抑制
─ランダム化比較試験による検討─
島田 裕之牧迫 飛雄馬土井 剛彦吉田 大輔提本 広大上村 一貴阿南 祐也大矢 敏久鈴木 隆雄
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キーワード: 軽度認知障害, 記憶機能, RCT
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p. Ec1046

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抄録
【はじめに、目的】 認知症は加齢とともに増加し、高齢者数の増大とともに有病者数が急激に増大し、社会保障費を圧迫する原因となっており、団塊世代が今後10~20年の間に認知症の好発年齢を迎える2025年頃には認知症高齢者の急増が見込まれ、その予防が急務の課題となっている。認知症の主な原因疾患はアルツハイマー病と脳血管疾患であるが、その根治療法や予防薬の開発が確立されていない現在において、非薬物療法の可能性を検討が重要であると考えられる。認知症ではないが軽度な認知機能の低下を有する状態は、軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)と呼ばれ、MCIを有する高齢者は、認知症に移行する危険性が高い反面、正常の認知機能に回復する場合もあり、認知症予防を積極的に推進すべき状態と考えられる。MCIの改善や認知症発症予防のための非薬物療法として、習慣的な運動の促進、抗酸化物質や抗炎症成分を多く含む食物の摂取、社会参加、知的活動、生産活動への参加、社会的ネットワークが、可能性のある介入手段として考えられているが、効果検証の知見は十分とはいえない。本研究では、MCIを有する高齢者に対する運動介入が、認知機能の低下抑制に効果的か検討するためランダム化比較試験を実施した。【方法】 対象者は自宅に居住する65歳以上の高齢者1,543名のデータベースから、Clinical Dementia Ratingが0.5、もしくは主観的記憶障害の訴えがあった528名のうち135名が詳細な認知機能検査を受け、Petersenの基準に合致したMCI高齢者100名(平均年齢75.4歳(65-95歳)、男性51名)を対象とした。ベースライン調査実施後に健忘型MCIを呈していたかで層化し、運動群と講座群とに対象者をランダムに割り付けた。運動群は、有酸素運動を中心としつつ、記憶や思考を賦活する課題を取り入れた運動を6か月間受けた。1回のプログラムは90分間とし、期間中に40回のプログラムに参加するよう実施計画を立てた。講座群に対しては、介入期間中に健康に関する講座を2回開催した。評価項目は、Mini-Mental State Examination (MMSE)、Alzheimer’s Disease Assessment Scale-Cognitive subscale (ADAS-cog)、ウェクスラー記憶検査(WMS-R)の論理的記憶(即時再生、遅延再生)、 MRIによる脳容量測定であった。分析は、全対象者および健忘型MCI高齢者のみの2次解析を実施した。運動群と講座群間の比較のために年齢、性別、教育歴を共変量とした共分散分析を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し、同意を得た。本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。本報告に関連し、開示すべきCOI関係にある企業などはない。【結果】 92名の対象者が介入前後の検査を実施した(運動群47名)。運動群の47名の介入参加率は平均85.9%であった。47名中2名の対象者は1回も介入に参加しなかったが、これらの対象者も分析に含めた。全対象者の分析においては群間差が認められなかった。健忘型MCI高齢者を対象とした2次解析においてMMSE(P = .04)、WMS即時記憶(P = .04)、全脳皮質における脳容量(P < .05)において群間差が認められ、運動群の認知機能の向上と脳容量の保持効果が認められた。【考察】 運動が認知機能に対して良好な影響を及ぼすメカニズムとして、神経炎症の減少、血管新生、神経内分泌反応などが示唆されている。これは有酸素運動によってもたらされた血管の新生や脳血流量の増大などが影響しているものと考えられている。有酸素運動によってMCI高齢者の注意、遂行機能などの改善効果は先行研究によって明らかとされていたが、記憶に関する改善効果を明らかとしたのは我々の研究が初めてである。これは、介入に記憶を賦活する課題を含めていた点が他の研究と異なり、これが記憶機能の向上に寄与したものと考えられる。記憶は認知症の中核症状であり、運動介入によって記憶機能の保持が可能であれば、MCIから認知症への移行を遅延させる可能性が期待できると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 いままでの理学療法では、認知機能をアウトカムとした研究が積極的に行われてこなかった。しかし、近年になり、運動は認知機能を向上させる有力な手段であることが明らかとされ、本研究はランダム化比較試験にて運動がMCI高齢者の認知機能へ及ぼす効果を実証した日本における初の大規模研究であり、その意義は高いと考えられる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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