抄録
【はじめに、目的】 ここ数年間で要支援者数は急激に増加しており、ハイリスク者に対する重度化予防のための有用な介入プログラムの開発が求められている。しかし、各地、各施設で積極的に様々な取り組みがなされているものの、スタンダードと呼べる有用な介入方法の開発には至っていない。その大きな障壁となっているのが費用対効果の問題であり、通所施設等で実施する教室型の運動介入だけでは、全国で125万人以上いるとされる要支援高齢をカバーすることは現実的に困難である。一方で近年、歩数計装着による行動変容が着目されており、メタボリックシンドローム等の生活習慣病に対しては一定の予防効果を得ている。しかし、虚弱高齢者を対象に歩数計装着の効果を検証したものは極めて少なく、運動機能向上効果を検証したものはない。そこで本研究では、要支援高齢者を対象に6カ月関の歩数計装着プログラムを実施し、運動機能向上効果を検証した。【方法】 対象は要支援高齢者87名であり、層化ブロック法を用いた無作為化によって歩数計装着群(P群、43名)とコントロール群(C群、44名)の2群に分類した。P群の対象者には、歩数計を装着しカレンダーに日々の歩数を記録することを促し、月1回の頻度で研究者にカレンダーを郵送(もしくはFAX)してもらった。研究者はその情報をもとに、1ヶ月間の平均歩数と翌月の目標歩数をフィードバックした。目標歩数は毎月10%ずつ増やしていくこととし、最終的に60%の増加を目指した。介入前後に2週間の歩数計調査(身体活動量)、各種運動機能測定(10m歩行、TUG、ファンクショナルリーチ、5回立ち座り)、それに生体電気インピーダンスによる四肢筋量を測定した。なお、身体活動量は季節変動があることが知られているため、気温による変動を受けないように、介入前測定は10月下旬、後測定は4月初旬に実施した(11月から4月末までの6ヶ月間は介入期間)。統計解析としては、二元配置分散分析によって、これらアウトカムの群間比較を行った。さらにP群において、介入前後の測定値から身体活動量の変化率を算出し、各種アウトカムの変化率との関係をSpearmanの相関係数により検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は京都大学医の倫理委員会の承認を受けて実施した。対象者全員に対し口頭にて研究の目的及び内容を十分に説明し同意を得た。【結果】 脱落者はP群で3名、C群で2名であったため、解析はP群40名(75.5±5.9歳、女性率50%)、C群42名(75.8±7.6、47.6%)で行った。P群の歩数は、介入前の2013.4±1322.8歩/日から介入後には3726.4±1606.5歩/日と83.4%増加していた。二元配置分散分析の結果、身体活動量(P群2031.4±1322.8歩→3726.4±1606.5歩、C群2046.7±1697.5歩→2266.8±1837.2歩)、10m歩行時間(P群11.7±3.2秒→10.8±2.7秒、C群:11.7±2.9秒→11.7±3.3秒)、TUG(P群12.0±4.1秒→11.4±3.1秒、C群:12.3±3.3秒→12.6±4.2秒)、それに四肢筋量(P群0.154±0.016kg/weight→0.168±0.027kg/weight、C群:0.158±0.018kg/weight→0.159±0.020kg/weight)の項目でP群は有意に改善していた(P<0.05)。身体活動量の変化量は、歩行速度変化量(r=-0.789)、TUG変化量(r=-0.441)、ファンクショナルリーチ変化量(r=0.450)、それに四肢筋量変化量(r=0.476)とそれぞれ有意な相関関係を認めた。【考察】 歩数計を用いた行動変容プログラムによって、要支援高齢者の歩数は83.4%増加し、それにともなって筋量および運動機能も増加することが示された。活動量が低下している虚弱高齢者に対しては、日々の歩数を10%/月ずつ増加させるという低強度の運動負荷でも運動機能向上効果が得られることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 要介護の重度化予防には運動機能低下の関与が大きく、理学療法の専門性が必要となる領域である。歩数計を用いた行動変容プログラムは、費用が安く、簡便に行える、大人数の介入可能などのメリットがあるため、要支援高齢者のみならず二次予防対象者等を含めた介護予防にも有用となる可能性がある。