理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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テーマ演題 ポスター
アウトカム評価尺度の国際生活機能分類コードへのスケール変換の妥当性
─WOMACを用いた疫学調査結果を標準値とした検討─
古西 勇
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キーワード: ICF, 評価点, 膝痛
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p. Ed0820

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抄録
【はじめに、目的】 国際生活機能分類(ICF)のコードは評価点があって初めて意味のあるものとなる.評価点は小数点の後の数字として問題の程度を表す.すなわち,「0(問題なし)」「1(軽度の問題)」「2(中等度の問題)」「3(重度の問題)」「4(完全な問題)」などである.それぞれの評価点範囲は「0-4%」「5-24%」「25-49%」「50-95%」「96-100%」に読み替えられる(以下ICF読替え法).このスケールの使用は,対象とする集団における標準値のパーセンタイル(以下%点)を参照にした較正を前提にしている.しかし,ヘルスプロフェッションの間でよく用いられるアウトカム評価尺度をICFのスケールに読み替えて報告した研究は少ない.本研究の目的は,地域在住の中高年者への膝痛に関連する疾患特異的なアウトカム評価指標を用いた評価尺度をICFのスケールに変換する方法を試案し,それらの妥当性を明らかにすることである.【方法】 新潟県内の主に農村部の地域において2009年2月に実施した郵送法によるアンケート調査結果を参照の標準値とした.住民基本台帳から40歳以上80歳未満の3600人を無作為抽出した集団が調査対象である.膝痛の評価尺度として用いたWOMAC(Western Ontario and McMaster Universities osteoarthritis index)の5段階(1項目の評価点範囲0~4)のLikertスケール(WOMAC LK3.1)の「痛み(WOMAC-P)」(5項目で合計範囲0~20)をICFのスケールへ変換し,ICF-Pとした.WOMACには正座や床からの立ち上がりなど日本の生活様式を考慮した項目が欠けていることから,新たに開発した「WOMAC-P拡大版(P-9)」(9項目で合計範囲0~36)も用い,スケール変換したものをICF-9とした.ICF-PとICF-9が評価尺度の中での妥当性をスケール変換後も保っているかを明らかにするため,WOMACの「身体的機能(困難さ,WOMAC-F)」(17項目で合計範囲0~68)をスケール変換したものをICF-Fとして,それとの関連性を分析した.スケール変換にはICF読替え法を採用した.膝痛の有症率を考慮し,1) 集団全員の%点とした場合(全員%点変換),2) 膝痛のない(あるいは困難のない)人を0とし,残りの人だけで%点とした場合(有症者%点変換)の2通りの手順を試案とした.試案ごとに,ICF-PとICF-9の違いにより評価点(0-4)における観察度数の分布に差があるかどうかをマン・ホイットニ検定で,ICF-PとICF-F,およびICF-9とICF-F,それぞれの組合せでの相関関係の強さをスピアマンの順位相関係数の検定で統計解析を行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 アンケート調査票の1枚目の扉に,回答が研究目的で匿名化情報として処理されることを明記し,返信に際しての記名を求めず,研究に対して回答をもって同意とした.【結果】 主な質問項目とWOMAC-P,P-9,WOMAC-Fの全てに回答した551人(女性327人,男性224人)分のデータが標準値として得られた.観察度数の分布(評価点0,1,2,3,4の順)は,全員%点変換では,ICF-Pで207(37.6%),0(0%),84(15.2%),235(42.6%),25(4.5%),ICF-9で118(21.4%),45(8.2%),117(21.2%),244(44.3%),27(4.9%)となり,ICF-PとICF-9の間で分布に有意な差が認められた(p = 0.009).有症者%点変換でも,ICF-Pで225(40.8%),68(12.3%),86(15.6%),154(27.9%),18(3.3%),ICF-9で163(29.6%),83(15.1%),99(18.0%),185(33.6%),21(3.8%)となり,分布に有意な差が認められた(p<0.001).相関係数の検定では,全員%点変換では,ICF-PとICF-Fとの間の相関係数(rs)はrs=0.831,ICF-9とICF-Fとの間ではrs=0.839と,どちらも有意な正の強い相関関係を示し(p<0.001),有症者%点変換でも,ICF-PとICF-Fとの間ではrs=0.823,ICF-9とICF-Fとの間ではrs=0.828と,どちらも有意な正の強い相関関係を示した(p<0.001).【考察】 本研究の結果から,全員%点変換では,観察度数の分布の評価点1で度数0(0 %)となったICF-PよりもICF-9の方が分布の偏りが少なく,より妥当な変換となったと考えられる.また,有症者%点変換でのICF-9では,評価点0から2までの度数の合計で50.8%となり,中等度の問題(評価点2)までを完全な問題(評価点4)までの半分とするICFの通常のスケールの概念にほぼ一致した.ICF-Fとの関連性は,ICF-PとICF-9のどちらも強い正の相関関係が認められ,ICFのスケールに変換してもWOMACの評価尺度の中での妥当性は保たれていると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 本研究は理学療法士を含めたヘルスプロフェッションの間でよく用いられる変形性股・膝関節症に疾患特異的なWOMACの評価尺度を,今後の活用が課題と考えられるICFのスケールに変換する試みの妥当性を検討した先駆的な研究であり,理学療法研究としての意義は大きい.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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